『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(マイケル・サンデル 著/鬼澤忍 訳)早川書房 この手でつかみ取ったと思っていたものの多くは、実力ではなく運による。貴族的な階級支配に別れを告げ、能力至上主義による平等を達成したかに見えるアメリカで、新たな不平等が生じていると筆者は指摘する。多額の寄付、高額の教育、不正な手によってまで富裕層が子どもの学歴をお金で買う。結果、“アメリカン・ドリーム”の国の流動性は、中国や欧州より低い。 筆者の慧眼は、学歴を媒介としたこの新たな階級社会のエリート層は、かつての貴族層よりも傲慢になりうると指摘する。能力主義の洗礼を受けたという自負は、人種や性別による差別を厳禁するアメリカでも、努力しない者として低学歴者への軽侮を正当化する。 だが、我々が能力と思いこむものの多くが富裕な家庭、十分な教育機会を含む単なる運に過ぎないと指摘する筆者は、それを正面から認め社会を改変