正直に告白しよう。読むのに普段の倍は時間がかかった。いや、もっとかもしれない。 架空世界の「バルスブルグ帝国」を舞台に、帝国に滅ぼされた隣国「ラグス王国」の王子だった少年を主人公とするファンタジー作品である。描線は徹底して流麗であり、画面は白黒のコントラストを十分に計算して作られている。つまり、表現上の洗練が見て取れる。だが、たいへん「読みづらい」のだ。 このウェブマガジンの多くの読者には、まず馴染みのない作品だろうと思う。 では本作がマイナーなものかといえばそうではない。この4月から深夜帯のTVアニメが放映されているとおり、10代の女子を中心に一定の人気を得ている。 マンガ家養成系の大学や専門学校の教員をやっていると、このマンガのようなスタイルの作品が、若い読者に熱っぽく支えられていることが肌で感じられる。オタク向けとされるコンテンツが、10代向けであるような建前を持ちながら、その実、3