雪で止まった電車の中で、多くの通勤客と同じように勝代は足止めを食っていた。 そういえば雪で走れなくなった電車の中で一泊したという人たちのニュースがあったなあ。と思い出しながら、鞄の中から書類を出して翻訳作業を始める。 今日はロンドンまで出張して家庭裁判所で日本人女性の通訳をしてきた。 それは一年ほど前まで勝代が関わっていた日本人女性のケースを思い出させる裁判だった。 1歳児を地方自治体に取られそうになっている日本人の母親。 しかし、前に関わった礼子のケースと比べると、今回は母親の年齢がぐっと若く、本人にあまり子供を育てたいという意志がないようだった。 この国の音楽やファッションが大好きで渡英してきたという彼女は、英語学校に籍を置きながらパーティー三昧の日々を送り、そのうち妊娠して子供を生んだが、子供の父親である英国人に捨てられてからは、赤ん坊を部屋に残してギグに出かけたりしていたという。