先月号の文藝春秋は恒例の芥川賞受賞作掲載号だったが、今回の受賞作、赤染晶子著『乙女の密告』はたいへん興味深かった。選評で作品に対する評価がまっぷたつに割れ、積極的支持と積極的不支持が鮮明に別れたのである。 作品は関西の外語女子大でドイツ語を勉強している女子学生を主人公に据える。この人が女子学生ばかりの学校のなかで『アンネの日記』を素材にドイツ語のスピーチを勉強しているというのが作品の世界である。スピーチ大会に向けて勉強する彼女らの間で、集団に波風を立てるような事件が起こり、主人公はそうした日常の小さな事件が積み重なるなかで、アンネ・フランクの人生に思いをめぐらしていくうちに、小説の時間はスピーチコンテストでクライマックスを迎える。 事件が起こると書いたが、この世界で起きる事件は些細なことでしかない。誰がクラスのどちらのグループに加担したか、誰が誰とお友達か、ドイツ人教授が大切にしていた人形
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