中東から世界を見る視点 川上泰徳 (7)ラッカ陥落後の中東の不安 シリアで米軍・有志連合とともに過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦をしていたシリア民主軍(SDF)が、10月中旬、ISのシリア側の都ラッカの制圧を宣言した。7月にはイラク側のISの都モスルがイラク政府によって制圧されており、ISが2014年6月に宣言した、イラクからシリアにまたがる「カリフ国」は崩壊した。 しかし、これでイラク情勢、シリア情勢、さらに中東情勢が安定化に向かうとは考えられない。ISを排除しても、もともとISが出てくる背景となったスンニ派問題は解決していない。その上に、ISを排除した力が、ISに代わる新たな危機を生み出す要因になるという、危機のいたちごっこになっている。 IS排除の過程で犠牲になった民間人 ISを排除した力は、イラク側では、シーア派主導政府のイラク軍とクルド地域政府のクルド人部隊、そしてシー
中東から世界を見る視点 川上泰徳 (2)トランプの「失言」、ネタニヤフとアッバスの「思惑」 ――パレスチナ「和平プロセス」の行方 シリア内戦に隠れてほとんどニュースにならないパレスチナだが、2017年5月に、パレスチナ絡みで2つのニュースが報じられた。一つは、パレスチナ自治政府のアッバス議長が米国ホワイトハウスに招かれ、トランプ大統領と会談したことである。もう一つは、ガザ自治区を支配しているイスラム組織「ハマス(イスラム抵抗運動)」が、ヨルダン川西岸とガザでパレスチナ国家を樹立することを支持する「政策文書」を発表したことだ。 パレスチナ紛争は「歴史的な」節目を迎える まず、アッバス議長とトランプ大統領との首脳会談の意味を考えてみよう。トランプ大統領は会談後の記者会見で、「イスラエルとパレスチナの合意は最も困難なものと言われてきたが、我々はそれが間違いであることを証明しよう」と語った。それに
七月に予定される参議院議員選挙を前に、日本最大級の右派政治団体「日本会議」の存在が今、注目を集めている。安倍政権の政策とその理念に符合が見られる、この組織の源流とはいったいなんなのか。 宗教学の泰斗と、気鋭の戦史研究家が、歴史的な文脈を踏まえつつ、宗教ナショナリズムと「日本会議」の結節点を探った。 「日本会議」は我々をどこに連れていくのか? 島薗 山崎さんの新刊『日本会議 戦前回帰への情念』(集英社新書)を拝読しました。現在の安倍政権と密接不可分な関係にある政治団体「日本会議」についての緻密な考察から教えられるところが多かった。戦史研究家としての今までの蓄積が存分に活かされていると感じました。 一方、私のほうは、この春に『愛国と信仰の構造──全体主義はよみがえるのか』(集英社新書)を刊行しました。ナショナリズムなどの研究で知られる政治学者・中島岳志さんと宗教学、とりわけ近年は国家神道につい
『イスラームとの講和 文明の共存をめざして』 内藤正典 中田考 著 欧米とイスラーム世界の共生は不可能だ(以上の7文字に傍点)という思い切った断定 内田樹 イスラームついてわからないことがあると、まずその知見を伺いたいと思う人が二人いる。この本の対話者である中田考・内藤正典の両先生である。本書はいくつか決定的に新しい知見を含んでいる。一つは欧米とイスラーム世界の共生は不可能だ(以上の7文字に傍点)という思い切った断定である。内藤先生はこう述べる。 「西欧とイスラームとの関係について、私は、もはや両者の関係は『水と油』、どこまでいっても交わることのないものであるという現実を直視した上でないと衝突を抑止できないと考えている。どちらかが相手をねじ伏せることも、啓蒙することもできない」 西欧とイスラーム圏の間は「戦争」状態にあり、最優先課題は「停戦」だというのである。そして、「講和」を実現するため
『一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教』内田 樹/中田 考 著 イスラームを学ぶことは、システムの不正に気づく手段 中田 考 大学三年生の時、イスラームに入信した。それから三〇年が経ち、人生の半分以上はムスリムとして暮らしていることになる。 「ムスリムになってよかったことはなんですか」と聞かれることがあるが、これが答えに窮する。見えるものがリアルで、見えないものはリアリティがないと考えるのが近代的な世界観だ。それに対して中世の世界観では、リアルなものはむしろ天上にあり、一瞬前と今で変わっていくような我々の生きている現実は、あくまでも仮象、仮の世界でしかない。そのような中世的世界観に立脚するイスラームでは、重要なのは来世であって、現世利益はあまり求めないからだ。そうやって生きていると、ムスリムになって何がよかった、などということはいちいち考えたりしないのである。 また、「ムスリムに
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く