田中幸一(アレクセイ) 最近の三浦しをんには、危惧をいだいていた。とても好ましくない方向に進んでいるという確信が、私にはあったからだ。 たしかに、最新の長編小説『私が語りはじめた彼は』(新潮社)は、たいへん評判が良く、直木賞の候補にもその名があがりかけたそうで、私もその作家的技量 の急成長ぶりを認めるのに吝かではない。だが、もっと根源的なところで、三浦しをんはダメになりかけているという危機認識が、私にはハッキリとあった。だから、『私が語りはじめた彼は』を読んだ直後から、私は私なりの「三浦しをん批判」を書かなければならないと考えはじめた。にわかに世評が高まりだした今こそが、善かれ悪しかれ最大の転機となりうるし、今しかないと考えたからだ。その認識は、最新エッセイ集『乙女なげやり』(太田出版)でさらに強まり、『IN・POCKET』誌 2004年8月号(講談社)に掲載された作家インタビュー「三浦