■拷問受けた「在日」の心象を描く 1918年2月に朝鮮の慶尚南道に生まれた朴庸徳の歩みを在日3世の著者が追跡調査する。朴は7歳で家族と共に来日、飯場を転々として小学校も12回転校しながら日本社会に身を置く。最下層の仕事に携わりながら、朝鮮人仲間との交流によって民族意識に目ざめていく。 堺市に住みつき、やがて東京に出て、向学心と仕事への意欲を満たそうとする。人間として知への渇きを抑えられない、同時に母国が蹂躙(じゅうりん)される様にがまんがならない。勉強会、労働学校などでの学びによって母国を日本の隷属化から引きはなすこと、それが人生の目標にもなる。36年秋に堺で逮捕された仲間との葉書(はがき)から不穏な計画を立てていると疑われ、東京で逮捕される。 こうした朴の体験を著者がすべて聞きとり、さらに特高関係の記録文書を丁寧に集めてその実態を再現する。特高文書の記述の詳細さに驚かされる。著者の感性は