「科学に国境なし」とはよく云い古された言葉である。なるほど一気圧における水が百度で沸騰し零度で氷となるというのは普遍的な自然現象であって、こんな事実ははるかに国境を超越したものである。従って斯る自然現象を対象として取扱う科学に国境なしと云われたのも当然というべきである。 そして国境なき科学を取扱う科学者は、自然と国境を越えて互にその研究に関する意見の交換を行い、一見科学者にも国境なきが如くに協力して科学の推進を行って来た。例えば宇宙線の研究にしても、初めてその存在を認めたのはオーストリアのヘス(一九一〇― 一九一二年)であったが、これを伝え聞いた独逸のコールホルスターは、すぐその研究に着手して宇宙線を一層明確にした。それから第一次世界大戦となってその研究は中絶せられたが、戦争が終わるとアメリカのミリカンは、直ぐに共同研究者等と新しい方法によって研究を進めて行った。 それからはイギリスでもフ