櫻田淳氏戦後保守思潮を代表する論客として語られた江藤淳教授は、1990年代半ばに著した『保守とはなにか』書中に、「保守主義とはエスタブリッシュメントの感覚である」という言葉を残した。エスタブリッシュメントとは、一般には「体制派」や「既得権益層」として語られるものであるけれども、そこで想定される「既得権益」とは、単なる経済上のものを指すのではなく、人脈、情報、社会作法、価値意識といった広いものを包含したものである。 こうした「エスタブリッシュメントの感覚」の中核にあるのは、「皇室への崇敬」である。それ故にこそ、江藤教授は、戦後、各国大使の信任状を天皇に奉呈する戦前の流儀を保った吉田茂の判断を評して、「これこそが保守の感覚だ」と書いたのである。 「保守」の感覚