・ 東京・六本木のサントリー美術館は、入館してから出てくるまで、それこそ非日常の世界であった。室町時代から江戸時代初期にかけて大流行した短い絵物語・「お伽(とぎ)草子」展でのことである。 「浦島太郎」「一寸法師」「鉢かづき」「物くさ太郎」など、幼い頃、夢中になって読み耽った講談社の絵本の懐かしい世界が、胸いっぱいに甦ってきた。 展示されている絵巻や絵本はいずれも興味深かったが、私の心を鷲掴みにしたのは「酒呑童子(しゅてんどうじ)」の絵巻であった。とりわけ、源頼光(らいこう=よりみつ)一党に大量の酒を呑まされ、刎ねられた酒呑童子の首が、凄まじい鬼の形相で頼光の兜にがっしと食らいつくシーンは圧巻であった。 酒呑童子の世界にもう少し浸りたくて、『酒呑童子異聞』(佐竹昭広著、岩波書店・同時代ライブラリー。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)を繙いてみた。 酒呑童子の物語は、大勢の鬼を配