晩ごはんは「アイヌの伝統食」だった 宇梶 家にアイヌの着物が掛けてあったり、アイヌ文様の漆器があったりと、身のまわりにアイヌ文化がありましたけれど、僕自身はアイヌとしては育っていませんから、同級生たちと違うところは変だなと思っていました。 川越 同級生たちと違う? 宇梶 たとえば、晩ごはんですね。友だちの家ではお母さんがハンバーグとかカレーライスとか子どもが好きな料理を作ってくれるでしょう。ところが、うちの食事はいつもオハウ(アイヌの伝統食、三平汁の起源とも言われる)でした。鮭や野菜などを煮込んだ温かい汁ものです。だから僕は、50歳近くになるまで鍋が嫌いだったんですね。鍋の味は好きなんですけど、あの頃を思い出すから食欲が出ない。「どうして僕だけカレーやハンバーグを食べられないんだ」という気持ちが蘇るというか……。 川越 食べ物の恨みは怖いですね(笑)。 川越宗一氏 ©文藝春秋 宇梶 僕は意