今ではもう閉店してしまったが、かつて私が住んでいた鯖野という集落にも一軒だけ喫茶店というものが存在していて、それは猫の喫茶店と呼ばれている店だった。この店は、今日の下北沢や町田にあるような店内に猫がいるカッフェテリアというわけではなく、猫が経営している喫茶店という意味合いにおいて、真の意味で「猫の喫茶店」だった。青いペンキで塗られたトタン屋根のその建物の、開けるたびにギィギィとまるで地下に巣くう得体の知れない魑魅魍魎がわめきたてる様に鳴るドアをくぐると、猫によって経営されていたにも関わらず、まったく獣の匂いがしない店内のなかにさまざまな生き物がただ時間を潰すためだけにいるのが見れた。猫の喫茶店に訪れる客の多くは就職活動に失敗した疥癬病みの犬や、戦争で片足を失った九官鳥だったが、なかには人間の客もおり、店内のちょうど真ん中にあるテーブル席には、いつも集落の女――といっても、多くは老婆なのだが