第四部 迷える近現代 従軍慰安婦問題の歴史的研究(林) 1 従軍慰安婦問題の歴史的研究 林 史郎 はじめに 一九九一年一二月、はじめて三人の韓国人元従軍慰安婦が、日本政府の謝罪 と補償を求めて東京地裁に提訴し、日本人に衝撃をあたえた。「従軍慰安婦」と は日本軍の管理下におかれ、無権利状態のまま一定の期間拘束され、将兵の性 交の相手をさせられた女性たちのことであり、「軍用性奴隷」とでもいうしかな い境遇に追い込まれた人たちである。従軍慰安婦の存在自体は、戦争に行った ことのある元軍人ならだれでも知っていることであり、それまで従軍慰安婦の 問題がまったく意識されていなかったわけではない。しかし、問題の重大性に ついての社会的関心は決して広くはなかった。「韓国挺身隊問題対策協議会」な どを中心とする韓国の女性運動によって問題が社会化したのである。これに対 してて日本政府は公式に謝罪(訪韓した宮