捜査官3人がかりでうその調書に母印を押させられた状況を再現する金勝孝さん(京都市右京区) 「余計なこと言ったら拉致してやる」。スパイ捏造(ねつぞう)の総仕上げとして金勝孝(キムスンヒョ)(68)に加えられた脅迫は、40年近くも心を縛った。家にこもり、夜になると拳で畳をたたいて叫んだ。呪縛を、家族や支援者らが少しずつ解いていった。 民主化が進む韓国で、在日スパイ事件の被害者が一人、また一人と再審無罪を勝ち取っていった。しかし勝孝は裁判を受けるための訪韓を断固拒否した。気晴らしにと、桂高の同級生たちが高校など思い出の場所に連れ出した。折々に「今の韓国はどうもないから、行ったらどうや」と水を向けたが、だめだった。 韓国の法律は本人に心身障害がある場合、兄弟らが再審請求できると規定している。異例のケースだが2015年に兄勝弘(76)が本人に代わって請求した。 当時の大統領は保守の朴槿恵(パククネ)