95年12月、ボクシングの殿堂と呼ばれて久しい東京・水道橋の後楽園ホールで未曾有の事件が起こった。日本人ボクサーによる世界ミドル級タイトル奪取。それは日本のボクシング界にとって、酒の席で吹聴するのも躊躇われるほどの”夢物語”だった。 あれから13年。その夜、リングの主役だったヒーローに会いに行った。竹原慎二は現役時代の眼光の鋭さそのままに186センチの長躯を折り曲げて、携帯電話をいじっていた。 ──タイトル獲得から13年経ちます。今振り返って、すごいことをしたという実感はありますか? 「特にないですよ(笑)」 ──え、ないんですか? 「ないない。全然ない」 ──ミドル級チャンピオンですよ? 「みんな結局、そういうもんでしょう。例えば石川遼だって、今すごいけど、本人は別に当たり前のことをやってると思ってますよ」 平然と、まるで「昨日、犬を散歩させました」とでも話すときのように、竹原はその夜の