日本美術にはただ美しいだけでなく、怖さ、暗さ、不気味さを帯びた作品が数多くある。なぜ闇が描かれるのか、その先にある救い、そして笑いとは――作品に即して読みとく、闇からの日本美術入門。第八回は、死体をめぐる絵画と文学作品から。 発心する男 朽ちてゆく死体のイメージが、中世には数多くの仏教説話を育んだ。なかでも、平安時代中期の天台僧で、三河入道(みかわにゅうどう)と呼ばれた寂照(じゃくしょう、九六二頃~一〇三四)が、九相観を契機に出家したとの伝承は、数多くの往生伝や説話集において同工異曲に語られた。 その一例が、鎌倉時代初頭に成立した『宇治拾遺物語』第五十九話「三河入道、遁世の間の事」である。 参河(みかわ)入道、いまだ俗にてありけるをり、もとの妻をば去りつつ、若く、かたち良き女に思つきて、それを妻にて三川へゐて下りけるほどに、その女、ひさしくわづらひて、良かりけるかたちもおとろへて失せにける
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