── 金原亭馬生のCDブックが新たに出ます。 「はい。この3月に、父・十代目金原亭馬生が遺した東横落語会の口演がまとまって世に出ることになりました。これまで父の落語の音源はあまり出ていません。“落語の芸というのは、そのときだけで消えてゆく、一回限りのものだから、録って残さないほうがいい”という考え方の人でしたから。 そんな父がいちばん力を入れて臨んでいたのが東横。昭和43年からレギュラーに定着して、亡くなる前月の昭和57年8月まで高座に上がり続けました。今回は噺家として最も脂が乗っていた時期の音源から、初出し46席を含む50席を厳選したと、うかがっています」 ──東横はホール落語の一番の名門でした。 「私が小学5年生くらいの頃から、うちでは“トウヨコ”というのは特別な呪文のようでした。子供心に、トウヨコと聞くと、意味もわからないまま〈きょうは大変な日なんだ〉という、ひそかな興奮があって。出