数週間前、偶然海辺に立てられた招軍旗を目にした。 確か、恒春半島を枋寮から楓港ふうこうを経て、牡丹郷に向かう途上だった。屏鵝へいが公路と呼ばれる台26線の幹線道路上では、近くの集落からやって来た農業従事者たちが並べられるだけの商品を並べて、法定速度+αで疾走する旅行者たちの車を呼び込んでいた。 芒果マンゴー蓮霧レンブ皮蛋ピータン洋葱たまねぎ玉荷苞ライチ蜂蜜はちみつ釈迦しゃかとう菱角ひしのみ 手書きで書かれた巨大な看板の文字が、するすると背後へと流れ落ちていく。細切れになった言葉を口にすると、何やら念仏を唱えているような気がした。 馬手に広がる大海原には毒々しいまでの陽光が降り注ぎ、剥き出しになった首元や手の甲をチリチリと焦がしていた。ヘルメットのフェイスガードの下に、ぼくは夜市で購入した厚手のサングラスをかけた。どうにかまともに運転できるようになったが、それでも視界に映る景色は強烈な日差し