日本で最初に文明のことを持ち出したのは福澤諭吉(412夜)である。『文明論之概略』のなかで、文明は「シヴィリゼーション 」(civilization)の訳だと断ったうえ、「文明とは人の身の安楽にして心を高尚にするを云ふなり。衣食を饒(ゆたか)にして人品を貴くするを云ふなり」と書いた。 衣食足って礼節を守ることが文明だというのではない。福澤は続いて「この、人の安楽と品位を得せしめるものは人の智徳なるが故に、文明とは結局、人の智徳の進歩と云ふて可なり」と付け加えた。 もうひとつ付け加えたことがある。「智徳の進歩」というと個人の成長のことを意味してしまうように解釈するかもしれないが、そうではない、「其国を制する気風」が智徳であって、それを文明と言うのだと説明してみせた。 一方、シヴィリゼーション を「文明」と訳さずに「開化」と訳したのは西周だった。あのキラキラとした知的編集構成力で鳴る『百学連環