7月の青空と海の色はようやく季節に相応しい色を見せ、この小さな港町にも道東特有の遅い夏が訪れようとしていた。朝の澄んだ空気はまだほんの少しだけ冷たさを残していたが、そんなことは気にも留めないがごとく風を切って自転車を飛ばし、町中を駆け抜けるひとりの男がいた。 いま彼が乗っているのはブリヂストンの通学用自転車で、商品名をアルベルトという。わざわざ隣町のサイクルショップまで出向いて手に入れたものだ。とうの昔に学校は卒業していたし、地元のホームセンターでももっと安い自転車は買えたが、男にとってそのアルベルトには価格以上の価値があった。購入するときに店主と交渉した結果、アルベルトの宣伝用のぼりと業務用のカタログを譲ってもらうことに成功したのだ。現在、のぼりはジップロックに真空状態で封入され、カタログは専用のクリアファイルに収められて、どちらも彼の部屋で厳重に保管されている。クリアファイルの中には、