正史−−教科書に書かれた歴史はみごとに首尾一貫している。強い者が勝つ。この当然の力学が説明されるために、数字がならべたてられ、条文や宣言が熱心に盛りこまれる。感情移入を排除したかのとく見せかける技術がフル回転せられ、無味乾燥な体をなす歴史記述の中で、単純な力学はいつのまにかねばねばした法則にすりかわる。勝った者は正しい。 これが今日、歴史体系といわれているものであり、近代以降、この体系の内奥にはつねに巧妙な倫理主義か秘められているのである.正史の編纂者とはまさにこういう歴史体系のたゆまざる創造者であり補足修正の技術者にほかならない。彼らの努力によって、人は、俗にいう歴史--正史を読めば読むほど、力学の縦軸、倫理主義の横軸によって固定化された一つの座標軸の中での発想を余儀なくされる。この座標軸から自由になろうとすれば容赦なき報復が待ち受けているという恫喝が伏文字として機能しているからだ。呪縛