平野、河川、海岸といった地形は昔から変わらずそこにあると考えられがちだが、実は人が歴史的に形成してきたものが多い。大規模開発が始まる江戸以前の日本の海岸近くの風景は現在とはまったく異なり、水と陸の混じり合うラグーン(潟)が全国各地に広がっていた。 全国各地にあったラグーン 江戸時代の絵師、歌川広重の絵には、静岡県の富士山の南麓にかつてあった浮島沼が描かれている。「東海道名所記」や「東海道中膝栗毛」には、うなぎの焼き売りが名物という記述がある。鎌倉時代の紀行文にも、東西に長い美しい沼で、アシを刈る船があちこちに浮かぶ光景が記録されている。(図1) 江戸初期から小規模な新田開発が進められた結果、沼の水面はだんだん狭くなっていった。浅い沼だから少しずつ堆積が進んでいったようだ。自然な堆積によって陸地化した場所を耕地にする「切添型(きりぞえがた)」と呼ばれる手法で開発が進められた。 新田の排水に課