カズオ・イシグロは1954年に長崎で生まれ、5歳時に一家で渡英する。その作風は、映画に例えるなら小津安二郎で、読み進むにつれ懐かしい湿感が心に染み込んでくる。 最新作「わたしを離さないで」については、別稿(3月8日)で触れた。今回は前作の「わたしたちが孤児だったころ」の感想を記したい。デビュー作「女たちの遠い夏」、第2作「浮世の画家」はともに、ルーツ(日本)に遡及した作品だったが、本作にも和糸がくっきり織り込まれている。 クリストファーは親友アキラとともに、上海租界で少年期を過ごした。ロンドンで探偵として名声を得たクリストファーは、自らが孤児になった経緯を探るため、魔都上海に帰って来た。アヘンと英国企業との関わり、国民党と共産党とのせめぎあい、腐敗した警察、独自の権力を持つ軍閥……。両親の失踪は当時の社会状況と無縁ではなかった。 クリストファーが両親、アキラとの掛け替えのない絆を追い求める
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