世界中の読者を本質的な謎に導く作家 村上作品を紹介するときに最も使われることの多い用語の一つが「マジック・リアリズム」だ。 ホルヘ・ルイス・ボルヘスやガブリエル・ガルシア=マルケスなど、ラテンアメリカ文学を代表する作家の特色として用いられることの多いこの言葉は、一般的に現実・日常・現代社会といったリアリズム的設定と、幻想・魔術・神話など超現実的モチーフが融合したプロットや世界観を備えたフィクションを指す。 近年では、ノーベル賞作家のオルハン・パムク、莫言、オルガ・トカチェフなどもマジック・リアリズム的作品を得意としてきたが、初期の傑作『羊をめぐる冒険』(1982)以来、一貫して現実と幻想が奇妙に入り混じる作品を発表し続けてきた村上もまた、世界文学を代表するマジック・リアリズム作家とみなされている。 たとえば米紙「ニューヨーク・タイムズ」は次のように述べ、その唯一無二の世界観を絶賛している。