「誕生日だから早起きした/25歳まで生きてこられた俺は恵まれてる」 ナズの「Life's a Bitch」の言わずと知れた有名ラインをもじって、ロジックが「Innermission」という曲でこのようにラップしている。四六時中、死が隣り合わせで眠ることすらままならない苛酷なストリートをサヴァイブするナズのこのリリックを引用したラッパーは過去に大勢いるが、ロジックほど引用するにふさわしい人物もそうそういないだろう。え、ちょっと待った、ロジックってあの色白の肌をした青い目の小僧だろ? 白人で「平和と愛と楽観主義」とか言ってる奴。あいつがナズの言うような“クソみたいな人生”を経験してるわけないじゃん。白人なんだから、きっと裕福な家庭で育ったに決まってる。——そう、ロジックの問題意識はこの点にある。つまり、黒人の父と白人の母のあいだに生まれたバイレイシャル(混血)という彼の出自に起因している。 ロ
『ユリイカ』(2016年6月号 特集=日本語ラップ)でタイラー・ザ・クリエイターの話をしているけど、その発言がどれも的外れで無理解が目立つ。まず「あいつ(注:タイラー・ザ・クリエイター)自体は別にオタクとかじゃない、普通にパーティピープルで、悪いんだよね」(『ユリイカ』2016年6月号224頁)とあるが、実際はその逆で、タイラーは完全なる音楽オタクである。タイラーの音楽オタクぶりは『Cherry Bomb』(15年)を聴けばわかる。スティーヴィー・ワンダー、リオン・ウェア、イギー・ポップ、ジョイ・ディヴィジョン、マック・デマルコ、その他多くのミュージシャンの作品に影響を受けたと公言する『Cherry Bomb』は、タイラーの音楽的素養が詰まった作品だ。『GOLF BOOK』(15年)に掲載されているエッセイを読んでも、タイラーが一家言もった熱烈な音楽ファンであることは明らか。「Rusty」
メトロ・ブーミンが近ごろのラップミュージックの潮流に一言物申す! 日々大量の新曲や新作ミックステープがネット上に公開されているいまの状況を、メトロ・ブーミンはあまりよく思っていない。具体的には、いまのミックステープ市場を「粗製乱造」と考えているようだ。僕もメトロ・ブーミンのこの考えには同意である。 粗製乱造の謗りを受けたと思い込んだヤング・サグとのあいだに一悶着あったりと波紋を呼んだ今回のメトロの問題提起発言だが、そんなヤング・サグやフューチャーなどのミックステープ作品に多くの楽曲を提供する、現行のミックステープ市場に大きく携わるインサイダーであるメトロからこのような発言が飛び出したことはきわめて重要だと思う。 提供されたトラックに適当な歌詞を乗せてラップして(合間合間に奇声なんかも入れて)、ある程度曲数が溜まったらミックステープとしてリリースする。リリース後もレコーディング作業は休みなく
タイラー・ザ・クリエイターがファッション・ブランド「Golf Wang」の15年春夏シーズンの最新作として発表した「GOLF PRIDE WORLD WIDE」Tシャツは、同性愛差別や人種差別に対するタイラーの意思表明である。白人至上主義/ネオナチ団体の掲げるスローガン「White Pride World Wide(世界に誇らん白人(様)の威厳)」をもじったロゴとレインボーカラーに彩られたケルト十字を配した強烈なデザインに思考を迫られる。これは同性愛差別や人種差別などの「馬鹿げた考え」からパワーを奪取する試みだという。「誰かの性的指向を指してその語(faggot)を使ったことは一度もない!」と本人も再三言っているけど、タイラーのことをホモフォビアだと批難するひとは、知ったような口を利く前に、例えば『Wolf』(13年)収録の「Rusty」を聴いてから発言してほしい。「木を見て森を見ず」とは
タイラー・ザ・クリエイターが自身のフェイスブックに投稿した、同年代の若者に向けたメッセージがたいへん素晴らしかったので訳してみました。タイラーたちの音楽が多くの若者たちを勇気づけていることは、「Fader」の「10 Female Fans On Why They Love Odd Future」を読んでもよくわかる。以下拙訳なり。 ネガティヴ思考の人たちみんなを勇気づけたい。俺は若干23歳にして偉業を成したけど、まだ手を緩めるつもりもない。弱腰になったり、悲観的に考えるのはよすんだ。そうでなく自分を信じること。馬鹿どもの相手をするのはやめろ。クサなんか吸ってないで、やるべきことに専念するんだ。それが自分たちのためになるからさ。俺にできるんだから、みんなにだってできるはず。「いいね」に執着するなんて馬鹿馬鹿しい。自分に限界を設けてどうするんだ。世の中には自分のことが嫌いな人、自分に満足できな
「みんな俺のこと知ってる?」AVALANCHE 4のステージの上、さあこれからソロ曲を披露せんとするRIKKIがおどけた調子でこう言って観客を湧かせていたのをよく覚えている。そのときはRIKKIのことをあまり知らなかった。もちろん名前や顔、彼がSIMI LABの新メンバーでラップをやっていることなど最低限の情報は知っていた。というより、それ以上のことは知りたくても知りようがなかったように思う。SIMI LABの2ndアルバム『Page2 : Mind Over Matter』(14年)には各メンバーがそれぞれの「出自」について歌った"Roots"という曲があった。しかしメンバーについて知るにはうってつけのこの曲にRIKKIは不参加だ。かといってRIKKIが他の参加曲で自分語りをしているかというとそうでもない。自分語りをする代わりに耳につくのはやたらとポジティヴなメッセージと達観的な視座。「
“ストーブの上に手を置く”なんて、どうかしてる。気でも触れたのか。狂気の沙汰としか思えない。恥知らずの大馬鹿者……。常識はずれな言動をとって、案の定バッシングの嵐という手痛いやけどを負ってしまったわけだが、さんざん苦しみぬいたからこそ見ることのできる景色もある。囚われていることにすら気づけない人間に、決して“自由”は獲得できない。「奴隷制は選択」という発言には、常識とよばれるものに絡めとられた、受動的な態度をかえりみるべきという真意が込められていたのではなかったか。まず手を置いてみないことには、熱さも痛みもわからない。カニエ・ウェストの人となりを表現するのに用いたストーブの比喩は独創性に富み、かつ超キャッチー。070シェイクのソングライティングの才に万雷の拍手をおくりたい。 “存在感はある”けれど……。自己批評のようであり、同時に有象無象のラッパーたちに対するけん制にも聞こえる。この曲につ
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