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ブックマーク / sekibang.blogspot.com (23)

  • ハーマン・メルヴィル 『白鯨』

    ホメロスに引き続き、読んだことなかったクラシックに触れるシリーズで『白鯨』を読んだ(書影は岩波文庫の新訳版ですが、読んだのは古い方の阿部知二訳)。このについては読む前から「モビィ・ディックがなかなかでてこない」「クジラに関する博物学的な記述に溢れてる」「すげえ脱線しまくる」という情報は知っていた。もはや「エイハブ船長とモビィ・ディックの死闘のイメージを持たれがちだが、実はそうじゃない」ということが周知されているから「エイハブ船長とモビィ・ディックの死闘のイメージを持つ人」が少なくなっているんじゃないだろうか。で、読むのがキツそうだな、と思って読み始めたんですよ。でもさ、意外に(?)面白くてビックリしちゃったね。いや、普通に面白いじゃんか、『白鯨』、なんだよ、ビビらせないでよ、と思っちゃったわたしである。 特に序盤、語り手がイシュメイルが捕鯨船に乗るまでの話。イシュメイルが刺青だらけの南方

    ハーマン・メルヴィル 『白鯨』
  • 大友良英 / Guitar Solo 2015 Left

    音楽レーベル、doubtmusicはこのほど10周年だそうである。10年前に大友良英のギター・ソロのアルバムからはじまって、10周年記念盤第1弾も大友良英のギター・ソロということだからなんだか干支が一周したのに近い感覚を覚える。10年前のギター・ソロもオンタイムで聴いていたから、なんとも自分に流れた時間についても考えてしまうけれども。作ではかつての師、高柳昌行が使用していたギターを使用し、エフェクターなども高柳のセッティングを意識したものとなっている、とのこと。 わたしは、高柳昌行の音楽をほとんど通過しておらず、つい最近になって『ロンリー・ウーマン』(1982年)を手に入れて「おお、なるほど大友良英の『Lonely Woman』や『Song for Che』という選曲はこういうところから来てたのか」という気づきがあったぐらい全然わかっていなかった。この『ロンリー・ウーマン』でも作で大友

    大友良英 / Guitar Solo 2015 Left
  • Guinga / Roendopinho

    昨日に引き続き、ギター音楽の新譜となるが今度はブラジルのミュージシャン、ギンガのギター・ソロ・アルバムを聴く。ミュージシャン兼歯科医、という異才(まあ、音楽会を振り返ればロシア五人組みたいに副業を持ちながら音楽史に名を刻んでいる人もいるわけだから珍しいわけでもないか。日にも美狂乱のギターの人とかいるし)の47年に渡るキャリアで、これが初めてのギター・ソロ・アルバムなのだそう。ギンガの筆による楽曲もそれなりに聴いているハズだが、彼のアルバムを聴くのはこれが初めてである。 ネット上では日語でまともにプロフィールも読めないので、英語版のWikipedia作のジャケットに印字された情報をざっくり訳しておく。1950年にリオ・デ・ジャネイロ郊外のMadureiraという町で生まれ、16歳から自作の作曲をはじめる(Wikipediaには14歳からとある)。歯科医として働く一方、ベッチ・カルヴァ

    Guinga / Roendopinho
  • Quique Sinesi / 7 Sueños / Familia

    Quique Sinesi bar buenos aires / インパートメント (2014-09-21) 売り上げランキング: 79,850 アルゼンチンのギタリスト、キケ・シネシの新譜を聴く。充実の2枚組で1枚目は「7 Sueños(7つの夢)」は2010年の日ツアーの際にまわった7つの都市(姫路、名古屋、山形、東京、岡山、福岡、京都)の印象をもとにして書かれた組曲。2枚目の「Famillia(家族)」は、表題どおりの組曲で、昨年母親を亡くした彼のプライヴェートな心情を綴ったものだ。ソプラノ・サックスやチェロ、パーカッションが時折加わり、どちらのディスクでもリリカルな音楽が提示されている。 1枚目が23分、2枚目が39分、と1枚のディスクに収まる長さではあるのだが、ディスクを分けたことによって、優れた短編小説集と随筆集とでを明確にわけているような印象を受けた。もっともこういう体裁

    Quique Sinesi / 7 Sueños / Familia
  • Iceage / Plowing Into the Fields..

    デンマーク出身のIceageのサード・アルバムを聴く。セカンドが でたのが昨年だから、もう新作か、と驚いたが、作はかなり音楽的に進化を遂げていたのでさらに驚いてしまった。荒々しい疾走感は少しだけ落ちついて……というか、ダークな雰囲気が高まっている。Joy Divisionの楽曲からとられたバンド名からしてその影響関係は明らかなのだが、作ではより一層、Joy Division的に思われた。とくにヴォーカルの暗黒ソウル感には、イアン・カーティスを強く想起させられたし、それからトム・ヨーク的でもある。というか、Iceageのヴォーカルを経由することで、イアン・カーティスからトム・ヨークへというヴォーカリストの系譜に改めて気づくことになった。 トランペットやヴァイオリン、ピアノも導入は、音楽性が急拡大を印象づける。The Pop Groupのようなダブっぽい曲もあれば、 Sonic Youth

    Iceage / Plowing Into the Fields..
  • Prince / Art Official Age

    プリンスの4年ぶりのアルバムを聴く。名前を変えたり戻したり、エホバの証人の伝道活動に熱心だったり、ストイックなビーガンになってみたり、インターネットに権利侵害されてるからもうアルバムださないと発言してみたり……諸々に忙しい人ではあるのだが、毎年最低1枚はアルバムを出してきた多作家である彼が、これだけスパンを空けていたのは珍しい。とはいえ、その間シングルは出していたし、定期的にツアーに出ていたようだし、沈黙を守っていたわけではない。 というか、アルバムだしてなくてもこの人の場合、なにかとニュースになりがちである。忘れられることなく話題にあがりつづけていても、謎の多いミュージシャンであり続けてもいるのだが。股関節だったかお尻に病気をかかえているから杖なしでは歩けない、ライヴももう無理だ、しかも宗教上の理由で手術ができない、などという噂もあった気がするが、どうなったんだ……?  今回も古巣のワー

    Prince / Art Official Age
  • Steve Reich / Radio Rewrite

    「今度はどんな焼き直し作品をだしてくるのか」とボヤきながら毎度購入しているスティーヴ・ライヒの新譜であるが、作は代表曲のひとつであり、パット・メセニーの録音で有名な《Electric Counterpoint》をRadioheadのジョニー・グリーンウッドが再録している、というのが大きな目玉であり、ちょっとだけ楽しみにしていた。もちろん、ジョニー・グリーンウッドの技術が、パット・メセニーのそれに敵うわけはない(ジョニー・グリーンウッドというギタリストは、ニューウェーヴ/ポストパンクの非ギタリスト的ギタリストの系譜にあるミュージシャンであるわけだし)のだが、それでも現代音楽に造詣が深く、BBCの委嘱でオーケケストラ作品を書いた経験もある彼がどんな風にこの曲を録音しているのかが気になった。 実際に聴いた感想を端的に述べれば「退屈な演奏」という表現がまず思いつく。パット・メセニーによるひとつひ

    Steve Reich / Radio Rewrite
  • 平賀さち枝とHomecomings / 白い光の朝に

    平賀さち枝とホームカミングス 平賀さち枝 Homecomings SPACE SHOWER MUSIC (2014-09-10) 売り上げランキング: 11,665 今年の夏に一番聴いた音楽は、NegiccoかHomecomingsのどちらかに違いない。どちらもわたしの心のソフトな部分にグッサリと刺さる大変エモーショナルな音楽だったのだが、その温度が冷めきらないうちにこうして新譜が聴けるのはありがたいことである。しかも、平賀さち枝とのコラボレーション、というではないか。リリースを楽しみにしていた一枚である。ともあれ、この平賀さち枝さんという女性歌手、これまでYoutubeでその歌声を聴いたり、インタヴューを興味深く読んだり、姿形を認識していたりした人ではあったのだが、実際に音源を買って聴くのはこれが初めてだった。 2012年に発売された彼女のアルバム『23歳』に収録されている「江ノ島」のP

    平賀さち枝とHomecomings / 白い光の朝に
  • Ricardo Herz & Antonio Loureiro / Herz E Loureiro

    アントニオ・ロウレイロの新譜を聴く。このSSWがとんでもないマルチ・プレイヤーであることはこれまでにも紹介してきたが、ピアノもドラムも歌も素晴らしいモノを持ちながら、人の「職」的な楽器はヴィブラフォンにあるところがまた異色である。作でのロウレイロはそのヴィブラフォンで、ブラジルのヴァイオリン奏者、ヒカルド・ヘルスとのインスト・デュオに取り組んでいる。ヴァイオリンとヴィブラフォンという組み合わせも珍しいし(楽器が並んでいる絵的には、パトリシア・コパチンスカがツィンバロン奏者の父親と共演しているのに似ているけれど)、ブラジルの音楽とこれらの楽器の組み合わせも縁が薄い感じがして、いろんな意味で異色のアルバム、と言えるかも。 収録されているのは、ロウレイロ、ヘルツの楽曲に加えて、エグベルト・ジスモンチなどのカヴァーも。クラシックとも違うし、ジャズとも違う不思議な手触りの音楽になっている、と思

    Ricardo Herz & Antonio Loureiro / Herz E Loureiro
  • Hamilton De Holanda / Caprichos

    ブラジルのバンドリン奏者、アミルトン・ヂ・オランダの新譜を聴く。バンドリンといはショーロなどのブラジル音楽で使用される小さいギター型の撥弦楽器で、この人は現代のブラジルで最高の奏者のひとりであるそう。作『Caprichos』に関して、ディスクユニオンのサイトでかなりいい加減な紹介がされているが(なぜ、Caprichosを『親愛』と訳せるのか……普通に考えたら『奇想曲集』だろう)2枚組全24曲という構成は、パガニーニの有名な《24の奇想曲集》を彷彿とさせる。 既発曲の再演も含むようだが、オランダ自身によるライナー・ノーツを読むと、作は技術的な内容を盛り込んだ、10弦マンドリンのためのブラジル音楽のレパートリーを作るプロジェクトとして制作されている。独奏曲だけでなくピアノ、ベース、アコーディオン、ハーモニカ……などとの二重奏曲、三重奏曲もあるのだが、バンドリンのメロディーはすべて楽譜に起こ

    Hamilton De Holanda / Caprichos
  • Negicco / サンシャイン日本海

    昨年大変話題になったドラマにご当地アイドルをテーマにしたものがあったが(一切観ていない)Negiccoは新潟のご当地アイドルだそうである。なんでも地元のJAが名産のネギをPRするために結成した、とかで、我が郷土であるところの福島における「ミス・ピーチ」的なイキフンも感じられ、そのネーミング・センス的にもJA感が溢れているところが、敬して遠ざけたくなるポイントでもあるのだが、最近の地下アイドル・ブームに乗ってポッとでてきたわけでも「おらが村でも『あまちゃん』やるべ!」的なノリで出てきた方々ではなく、なんと結成から11年目という年季がはいったグループなのだそう。 日アイドル・ソングが、大変批評に耐えうる音楽ジャンルのひとつになっていることは重々承知であるのだが、どうも、アイドル・ソングをただ消費するだけじゃない、うむうむ、俺はわかってるぞ、的な語りが苦手であり、そうした文化に参与することす

    Negicco / サンシャイン日本海
  • 小田朋美 / シャーマン狩り: Go Gunning For Shaman

    先日、菊地成孔主宰のDCPRGへの正式加入が発表された女性ミュージシャン、小田朋美のデビュー・アルバムを聴く(アートワークや選曲などをプロデュースしたことで菊地も製作陣に名を連ねている)。なんでも藝大作曲科出身の才女、ということなので坂龍一や、加古隆らの後輩ということになってしまうのだが、「藝大ブランド」があるのだとしたらそれに相応しい作品であると思った。ジャケットとアルバムタイトルからは極彩色の、荒々しい音を想像してしまうのだけれども、小田の歌声とともにあるのはピアノ五重奏、ピアノ五重奏+ドラム、あるいはピアノとドラムのデュオ、というシンプルな楽器編成で、とてもクラシカルな音色で構成されている。もちろんシンプルな楽器編成がモノトナスな音風景に直接的に結びつくわけではなく、むしろクラシカルな音の中でも音色の多彩さがとても良い。どのジャンルで囲うと一番しっくりくるか考えると、クロスオーヴァ

    小田朋美 / シャーマン狩り: Go Gunning For Shaman
  • Temples / Sun Structures

    テクノボン posted with amazlet at 11.05.05 石野 卓球 野田 努 JICC出版局 売り上げランキング: 100028 Amazon.co.jp で詳細を見る 石野卓球と野田努による対談形式で編まれたテクノ史。石野卓球の名前を見た瞬間、「あ、ふざけたですか」と勘ぐったのだが意外や意外、これが大名著であって驚いた。部分的にはまるでギリシャ哲学の対話篇のごとき深さ。出版年は1993年とかなり古いではあるが未だに読む価値を感じるだった。といっても私はクラブ・ミュージックに対してほとんど門外漢と言っても良い。それだけにテクノについて語られた時に、ゴッド・ファーザー的な存在としてカールハインツ・シュトックハウゼンや、クラフトワークが置かれるのに違和感を感じていた。シュトックハウゼンもクラフトワークも「テクノ」として紹介されて聴いた音楽とまるで違ったものだったから。

    Temples / Sun Structures
  • Gilberto Gil / Gilbertos Samba

    ジルベルト・ジルの最新作が、ジョアン・ジルベルトへのトリビュート的な内容だと聞いて、これは間違いないだろうな……と思っていたけれど、期待以上の出来で感激。めちゃくちゃ良い。盟友カエターノ・ヴェローゾが老いてなお妖艶さを増しているのに対して、ジルベルト・ジルの歌声は「円熟」という表現がピッタリなものとなっているのを実感した。年をとって涸れてきているわけではないのだが、ほんの少しネルソン・カヴァキーニョのような塩辛さも声のなかに含まれてきている。そのバランスがとても良い。 ジョアン絡みのクラシックを数多く収録し、そこにセルフ・カヴァーやドリヴァル・カイミの楽曲を織り込んだルーツ・サンバ的なコンセプトをまとめたベン・ジルとモレーノ・ヴェローゾのプロデュースも素晴らしかった。ここではアコースティック楽器主体のサウンドのなかに、サンプラーなどのアクセントを取り入れられて「ただただリラックスするための

    Gilberto Gil / Gilbertos Samba
  • Real Estate / Atlas

    Real EstateはUSニュージャージー州出身のバンドで、Dominoからでている作『Atlas』は3枚目のアルバムとのこと。全然知らないバンドであったが、いつものようにtdさんのブログで熱く語られているので手に取った。氏の言う「ギターポップと言えばギターポップ、になるのだろうけれどもTelevisionからテンションの高さを抜いたような、どことなく浮遊感ある音の印象的なギターフレーズ」という表現が気になりまくり「Televisionからテンションを抜いたら、何が残るのか!?」とYoutubeで視聴してみたら「これは言い得て妙、ってか最高じゃんか」と思って即購入したのだった。アルバムの1曲目「Had To Hear」、ギター、ベース、ドラムのインタープレイがめっちゃ『Marquee Moon』っぽい(ただし、ユルい)。 全体としてはYo La TengoやThe Sea & Cake

    Real Estate / Atlas
  • Beck / Mornig Phase

    Beckの新譜を聴く。シャルロット・ゲンズブールやサーストン・ムーアのプロデュース仕事は逐一チェックしていたので久しぶり感はないけれども、人名義の作品は前作『Modern Guilt』から6年ですか、意外に久々であった。ナイジェル・ゴッドリッチのプロデュース作品からのBeckはほぼゴッドリッチと同化しているように思われ、深いリバーヴでドリーミーな音作りが特徴的になっているのだが、Beck人プロデュースの作でもそのへんは継承されている。それにしてもこれ『Sea Change』以来の大名盤なのではないでしょうか。なんでも2005年から録音ははじまっており、その後長い中断を経て完成したのが作。『Sea Change』でも参加していた父親、デイヴィド・キャンプベルもストリングスのアレンジで参加しており、『Sea Change』との連続性を感じるアルバムとなっている(参加ミュージシャンには、

    Beck / Mornig Phase
  • 中島ノブユキ / clair-obscur

    わたしが中島ノブユキの名前を知るキッカケは、菊地成孔のアルバムに編曲者・作曲者として参加していたことで、とにかくしっかりとしたクラシカルな書法を学んだ人なんだな、という風に思っていた。最近は、大河ドラマの音楽をやったり、ジェーン・バーキンのツアーに参加したりと露出も増えていて、中島ノブユキは近年最も注目されている(ゴーストライターがいない)職業作曲家と言えるだろう。『clair-obscur』は彼の2枚目のピアノ・ソロ・アルバムとなる。 もっぱら中島ノブユキの仕事はストリングスのアレンジなどに触れているだけだったので、ピアノ曲はどういうものがあるのだろうか、と気になった。今回のアルバムには(陳腐な物言いになるけれど)「ECM的な深遠さ」を感じさせる楽曲が収録されている(なんかジャケットもそんな感じだ……)。「ソニア・ブラガ事件」(菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラールに提供した楽曲)のよ

    中島ノブユキ / clair-obscur
  • 2014年に聴いた新譜を振り返る

    今年は新譜を50枚ほど購入していた模様。たぶん過去最高に買っている……。こうやってリストを眺めてみるとかなり充実した一年だったかも。Beckの新譜も良かったし、Real Estateもすごくよく聴いた。レオ・トマッシーニも良かったなあ。坂慎太郎も、Buck-Tickも最高だった。キリンジもすごかった。アミルトン・ヂ・オランダとも良い出会いができたし、プリンスも最高だったな。あとXX年ぶりのリリース! みたいなのが多かった気が。ヴァシュティ・バニヤンとか、ディアンジェロとか、Aphex Twinとか。純クラシックはエマールによる平均律しか買ってないが、これも愛聴している。 今年の俺音楽 of the Yearを選ぶならば、間違いなく、HomecomingsとNegiccoになろう……。死ぬほど聴きまくった。

    2014年に聴いた新譜を振り返る
  • 菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール / 戦前と戦後

    菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラールの『戦前と戦後』を聴く。また世相的にすごいタイミングでのリリースとなったな、と思ったが、菊地成孔自身が立ち上げたレーベルの第一弾ということである。ペペ・トルメント・アスカラールは前作『New York Hell Sonic Ballet』はイマイチ乗り切れなかったのだが、これは近年の菊地成孔のなかでも最も優れた一枚ではないだろうか。初期のクセナキスのようなリズム・クラスターが強烈な「エロス+虐殺」、文字通り呪術的にダンサブルな「Voodoo/Fruits&Sharks」といったカラい楽曲も素晴らしいし、ヴォーカル曲の甘さと、菊地成孔の諧謔と風刺の効きまくった歌詞のバランスがとても良い(とくに標題曲『戦前と戦後』の歌詞は『普通の恋』ぐらいグッとくる……)。 キップ・ハンラハンの「CARAVAGGIO」のカヴァーにはキップ人が朗読で参加。その内容は『戦

    菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール / 戦前と戦後
  • dCprG / フランツ・カフカのサウスアメリカ

    菊地成孔のdCprG(表記の変更の意味はよくわからず)の3年ぶりのスタジオ・アルバムを聴く。前作からのメンバーの変更は、キーボードが新しく小田朋美になっている。活動休止前のDCPRGの最後のアルバム『フランツ・カフカのアメリカ』を更新するものとして作がある、みたいなのだが、いや、正真正銘の、控えめに言っても大名盤、と言いましょうか。前作のヴォーカロイドだとかJazz Dommunistersだとかはなんだったのか……とあっけにとられるほどの高密度のアルバムだった。演奏の濃さと締まり方がすごいし、そのうえ、内容がとてもキャッチーである。 複数のリズムの同時進行は容易に聴取可能ではなくなっているのだが、実に『アイアンマウンテン報告』や『構造と力』ばりに音楽から「踊れ」と言われている感じがすごくする。もちろん『フランツ・カフカのアメリカ』の「ジャングル・クルーズにうってつけの日」だとかゆっくり

    dCprG / フランツ・カフカのサウスアメリカ