江戸時代の鎖国は文明国が比較的クローズドな環境で行った貴重な実験例だった。世界でも有数の恵まれた海からの海藻や魚などの水揚げがありはしたが、江戸期の日本人は国土で収穫した食糧を国内で消費することで300年間も列島に閉じこもりを続けた。おおよそ三千万人程度で比較的安定していたと言えよう。 その長い自立過程で奇妙な事実を見つけ出したのが歴史人口学の慶応大の学者たちだ。速水融が見出したのが、こういう事実だ。 家畜の絶対数はどこでも減っているが、いちばん減ったのは平坦部で、山間部はそんなに減っていない(もちろん絶対数は減ったけれども)。平野地帯ではほとんど家畜がいなくなり、いても家数数十軒に一頭程度、村に一頭か二頭しかいないという状況になった。当初は家畜が農耕に使われていた可能性が高く、四、五軒に一頭でも交代交代に使うことで、農耕の最初に鋤で土地を掘り起こす目的に使うことができたが、村で一頭になる