――覚醒剤、コカイン、大麻、向精神薬……クスリに溺れる女たちを嗤うのはたやすい。だが、彼女らの声に耳を澄ませば、セックスやジェンダーをめぐる社会の歪みが見えてくる。これは、文筆家・五所純子による“女とドラッグ”のルポであり、まったく新しい女性論である。 ↑画像をクリックすると拡大します。 2018年2月、コカイン使用の疑いで逮捕されたゴーゴーダンサーの君島かれん。(写真/草野庸子) 「あんま覚えてないんですよね」 まただ。かれんも言う、リナも真弓も言った。初めてクスリをやったのはいつ? 捕まったときの状況は? どう殴られた? あいつと出会ったきっかけは? 過去の重要な局面を問うと、彼女たちは“覚えていない”と答える。はぐらかしているのではない。実に記憶が曖昧なのだ。自分の身に起きていることに注意深くブックマークをつけながら今を体験している人なんていない。それは押し入り強盗でなく、忍びやかに