1990年代にイギリスで大きくなった人間として、僕はザ・フォールのことをただ「そういうバンドがいる」という程度にぼんやりとしか認識していなかった。ザ・フォールとマーク・E・スミスは影の集団のような存在だったし、ポップ・カルチャーの背後で不可解に動き回っては、たまにそのスクリーンを突き破ってこちらをまごつかせる超俗的な何がしかをカルチャーの中へとすべり込ませていた。 スミスの声はインスパイラル・カーペッツの“アイ・ウォント・ユー”での電話を通してがなり立てるようなかすかにアメリカ英語っぽいマンチェスター訛りのヴォイスとして、そしてエラスティカとの共演曲“ハウ・ヒー・ロート・エラスティカ・マン”でおなじみだった。 コメディアンのステュワート・リー&リチャード・へリングのコンビはザ・フォールの“キュリアス・オレンジ”を自分たちのテレビ・コメディ番組(*1)のテーマ曲に使い、同番組に出てくる「ザ・