‘23年6月1日(木) 週に2、3度パンを買いにくる男がいる。 買っていくのは古びた安いパンだけ。 裕福には見えない ▼パン屋の女主人はこの男がだんだん 好きになる。ある日、男の古いパンに バターをこっそり塗って渡す。 しばらくして男が店に戻ってくる。 「なんてことを」。怒っている。男は設計士。 古いパンを消しゴム代わりに使っていた。 バターのせいで設計図は…。 オー・ヘンリーの『魔女のパン』である ▼小学生のときに読み、こんな物語が 書きたいと思ったそうだ。映画『怪物』で カンヌ国際映画祭の脚本賞に選ばれた 脚本家の坂元裕二さん ▼おせっかいが引き起こす騒動は 滑稽かもしれないが、物語をかみしめれば、 女主人の孤独やわかり合えぬ人間同士の もどかしさがにじみ出てくる。 人の悲しさを静かに見つめる坂元作品と 同じにおいがする ▼脚本を書くにあたってプロット(筋立て)を あらかじめ作らず、代