小島信夫「寓話」を読んでいる。また同時進行でプルーストの「失われた時を求めて」を読み始めた。死ぬまでに一度くらい読んでおこうと思ったのである。読み始めるとすぐに、 「もももももー」 と私の記憶がどんどんあふれ出てきた。読んでいるのが文字なのか記憶なのか、どちらが主導権なのか曖昧になった。不思議な装置である。私はお寿司のことを思い出した。お寿司とは、小学五年か六年のとき、たまたま隣の席になった背の高い女に、あるとき好きな食べ物を訊ねたところ、 「うーん、あたしはお寿司」 と答え、私はちょっと感動した。たぶんそのときは小集団でリーグ戦みたいに順番に自分の好物を披露していて、みんなオムライスとかステーキとか、洋食ばかりだった。小学六年とは、ちょうどお寿司を低く見る世代なのである。そんな中、背の高い女は 「お寿司」 と堂々と答え、私はカレーライスと答えた自分を恥じた。というのも私の家はめったに外食