もっとも簡潔な「はしがき」に出会ってしまった。 はらりと表題紙をめくると、左右にたっぷりと余白のあるページが現れる。その中央に、ほんの少し大きいポイントの活字で以下の文言のみが記されている。 はしがき 従来、貞和三年(1347)とされてきた『後三年記』の成立年次を天治元年(1124)に引き上げる――これが本書の主旨である。 これが、野中哲照『後三年記の成立』(汲古書院、2014年)冒頭頁の全てである。 一般的に、このような論文集は、長年別個に書かれてきたもの集成であるからか、「その本で何が明らかになるか」は、往々にして模糊としていることが多い。それに比べた本書の端的さ、鋭さには、思わず息を呑む。 軍記物語『後三年記』の成立年が200年引き上げられることは、些事ではない。 *『後三年記』の成立が院政期だとすれば、『平家物語』などよりも前のものとなり、『将門記』『陸奥話記』などの初期の軍記と『
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