東京大学大学院准教授 池上俊一 世界の国々の国力は、一般には、国内総生産とか軍事力によって測られていますが、文化の力も重要です。その点にもっとも敏感で、中世から現代にいたるまで、意識的に国造りに励んできたのが、フランスでした。フランスの最大の武器は食文化・美食で、お菓子はその代表です。 これは二枚の鉄板に挟んで焼かれるお菓子で、フランス語でゴーフル、英語ではワッフルと呼ばれるお菓子の原型です。 また十一世紀末には、十字軍の遠征が始まり、王侯貴族や騎士たちが東方へと向かいました。十字軍には、キリスト教の聖地エルサレム奪回のための戦いという以外に、ヨーロッパとイスラムの文化交流という側面もあり、砂糖や香辛料、オレンジ・レモン・アプリコットなどの果物、砂糖漬けフルーツ、さらにはジャムなどが、イスラム世界からヨーロッパへと伝わりました。貴族たちは、お抱え菓子職人に、こうしたオリエントからの食材を