きみはボードレールの「腐肉」という前代未聞の詩のことをおぼえているかね。今なら僕はあの詩がわかると言いきれるかもしれない。……この恐ろしいもの、一見ただ胸の悪くなるようなものの中に、存在するすべてのものに通じる<永遠に存在するもの>を見ること、これが彼に課せられた使命だったのだ。 ライナー・マリア・リルケ「マルテの手記」(*1) 「実に不思議なことだ」。 この言葉が、ずっと気になっている。小林秀雄先生が、永井龍男さんとの対談で繰り返している、セザンヌ(1839-1906)についての発言である。 「セザンヌという人は、死ぬまで、まっとうな職人で押し通したんだ。芝居っ気なんか、てんでないね。まわりを見まわすようなところはないですね。考えているのは、要するにかんなのことだけだよ。どういうふうに刃を入れたら柱に吸い付くか、また吸いつかないかって、それだけですよ。死ぬまでそれだけですよ。……特にいい