本書は昨年3月、80歳でこの世を去った植木等の評伝である。植木といえば、スイスイスーダララッタのスーダラ節である。こつこつやる奴ぁご苦労さんの無責任男である。部下に持ったら、日々てんてこ舞いかもしれないし、逆に上司だったら、胃が痛む毎日かもしれない。 そんな定型的なイメージを、戸井十月がうまくぶち壊した。憎めない笑顔と底抜けの明るさを除けば、人間・植木等は無責任男の対極、思慮深い古武士のような仕事人間だった。 戸井と植木の出会いは17年前。戸井が監督をつとめた劇場用映画の主役が植木だったのだ。それから10年が経ち、画家だった戸井の父親の遺作展の会場で偶然、戸井は植木と再会する。 植木は戸井の父に一度だけ会ったことがあった。戸井とその父はいわば兄弟のような父子で、慣れない仕事に奮闘する息子を気遣ってロケ地を訪れ、植木をはじめとする出演者たちに、息子をよろしくと菓子を配って回るという人物。「(