ウォルター・アイザックソンが、クリスパー・キャス9のジェニファー・ダウドナを主人公に据えて、『コード・ブレーカー』(原題はThe Code Breaker) という新作を出したと聞いて、わたしは「ん?」と思った。アイザックソンがこれまで評伝の対象としたのは、アインシュタイン、スティーブ・ジョブズ、レオナルド・ダ・ヴィンチなど、誰がどう見ても文句なしに突出した人たちで、そういう「天才」の創造の秘密に迫る、というねらいも納得がいく。 しかし、ダウドナというのはどうなんだろう? というのは、もしも本のタイトルが彼女を指しているのなら、「定冠詞(The ) +単数名詞(Code Breaker)」は、one and only のニュアンスを含まずにはすまないからだ。たしかにダウドナはノーベル賞を受賞したが、それだってエマニュエル・シャルパンティエとの共同受賞だ。さらに言えば、ノーベル賞を受賞した科