契沖 扨、愈々復古仮名遣の段に参りました。先づは、復古仮名遣を提唱した契沖について述べてみます。 契沖(1640~1701)は、江戸時代の中期、元禄を生きた学僧になります。摂津国の出身で、主に本邦の古代文献についての研究を進めて様々な註釈を著しました。其の研究の基盤は、実証主義に基づいてをり、前古に無い多大な実績を今日にまで伝へてをります。其の研究の一端として『和字正濫鈔』と呼ばれる仮名遣に関する書物が存在します。 契沖の生きた時代は、既にワ行の仮名(ゐ ゑ を)はア行の仮名(い え お)に紛れてゐましたし、語中語尾のハ行転呼音も発生してゐました。又、江戸時代初期頃まで残存してゐたアウとオウの発音の区別も殆ど残つてはゐなかつたと思はれます。更に濁音の「じ」「ぢ」「ず」「づ」の四つ仮名に附いても、混同が生じてゐたやうです。其のやうな状況の中で、書き言葉としての仮名遣を再構築したのは並大抵の努