侯都上空の空気は、あからさまなほどに震えていた。 紅い翼がやってきた。 その事実が、あらゆる翼人のこころを激しく揺さぶった。 何せ、自身の部族が滅ぼされたはぐれ翼人は多い。たとえ故郷を、仲間を奪われた憎しみが強くても、そのときの恐怖のほうが未だ勝っていた。 だが、まったく別の面で動揺を隠せない者たちもいた。 「どうなっている、リオ? ヴォルグ族がこのタイミングで動くなんて」 彼らと同じ翼の色をしたアーシェラが、まるでその事実に気づかぬように眉をひそめて、隣に立つ蒼の翼の男に問うた。 「それはこちらの台詞だ。何も聞いてないぞ」 「奴らがここに来る理由はなんだ?」 「知るか。お前のほうがくわしいはずだろう」 「…………」 「――すまん、過去は詮索しないのが流儀だった」 歳のわりに屈強な、リオという名の青年は、不器用ながらも素直に頭を下げた。 「じゃあ、本当に知らないんだな」 「ああ。あえて言わ