「横綱」という存在 2021年名古屋場所の15日目、千秋楽。横綱の白鵬と大関の照ノ富士、両者とも14勝で迎えた7月18日のこの取組は、いつになく緊張感のあるものだった。照ノ富士は、10年以上続いた白鵬の一人勝ち状態の後、この古来より伝わる日本の伝統競技の新たな頂点になると考えられていた。 取組は20秒で決着がついた。36歳の白鵬は膝のけがを抱え、過去の6場所では優勝できなかったが、この引退前最後の優勝により、史上最多優勝の座につくことが確定した。 名古屋場所のすぐ後、それまで63場所で422勝をあげていた29歳の照ノ富士は、大相撲の第73代横綱に昇進した。だがもっと注目すべきことは、照ノ富士は日本列島で生まれたのではなく、モンゴルの広大な高原で生まれた5人目の横綱だということだ。ちなみに、白鵬はその2人目である。 陸に囲まれたモンゴルの人口は、わずか330万人ほどだ。しかし、年に1回、伝統