「アメリカ人たちは、日本を去る前に方向を逆転させた。日本社会のなかでも自由主義的傾向が少ない連中と協力して、この旧敵国を再軍備し、冷戦の従属的パートナーとしはじめたのである。にもかかわらず、平和と民主主義という理想は、日本に根をおろした。借り物のイデオロギーでも押しつけの未来図でもなく、生活に根ざした体験として、そしてまたとない好機を生かした成果として。平和と民主主義の理想は、みごとな、そしてしばしば不協和音を奏でる様々な声となって現れ出たのである」(上巻 P.6)。これは、ジョン・ダワーの『敗北を抱きしめて』の序文に書かれた一節である。日本の戦後史を描いて高い評価を得た代表作において、ダワーはこう総括して結論を与えている。平和と民主主義という理想が日本に根づいたと。吉田裕の『昭和天皇の終戦史』を読んだあと、ダワーの本を読み返すうち、この文章が目に止まった。序文は、全体の結論を最初に読者に