二・二六事件獄中日記 磯部浅一 七月卅一日 明日は十五同志の三七日なり、余は連日祈 りに日を暮す、ただこまることは、十五同志に対しては いかに祈るべきかがわからぬ事なり、成仏(じょうぶつ)せよと祈って も彼らは「維新大詔の渙發せられ天下万民ことごとく堵(と) に安んずるの日までは成仏せじ」と言いて死したるをも って、とても成仏しそうにもなし、「成仏するな迷え」 という祈りをするわけにもゆかず、ほとほと困る次第な り、余はここにおいて稀代なる祈りをすることとせり、 「諸君強成の魂に鞭打ちて、も一度二月事件をやり直せ、 新義軍を編成して再挙し、日本国中の悪人輩を討ち尽せ、 焼き払え、日本国中に一人でも吾人の思想信念を解せざ る悪人輩の存する以上、決して退譲するこ上なかれ、日 本国中を火の海にしても信念を貫け、焼け焼け、強火の 魂となりて焼き尽せ、焼きてもなおあきたらざれ