時が流れるということを疑う人はいないだろう。時間の経過はおそらく人間の認識の最も基本的な側面を表している。というのも,人間は過ぎゆく時間を自己の最も奥深い部分で感じており,それは例えば空間や質量についての体験よりも概してずっと根深いものだからだ。時間の経過は飛んでいる矢や大河の流れに例えられ,私たちを過去から未来へと無情にも連れ去るものとして考えられてきた。シェークスピア(WilliamShakespeare)は「時は巡り」と書き,やはり英国の詩人であるマーベル(Andrew Marvell)は「時という名の,翼のある馬車が迫り来る」とうたった。 こうした見方は詩情をそそるが,一方では衝撃的なパラドックスを生む。現代物理学には,時の経過という概念がないのだ。物理学者たちによると時間は流れず,単に「存在する」だけだ。哲学者の中には,時間の経過という概念それ自体が無意味であり,時間の河や流れと