クリスマス・シーズンに英国で流れる曲は、毎年決まっている。 ザ・ポーグス&カースティ・マッコールの"Fairytale of New York"、スレイドの"Merry Christmas Everybody"、ボブ・ゲルドフ&仲間たちの"Do They Know It's Christmas"などである。が、数年前から上記曲群の仲間入りをしているのが"Hallelujah"だ。といっても、街中でかかっているのはレナード・コーエンのオリジナルではなく、数年前にオーディション番組で優勝してクリスマス・チャート1位になった女性歌手のカヴァー・ヴァージョンや、『シュレック』で使われたジョン・ケイルのヴァージョンもある。ジェフ・バックリーのカヴァーもかかるし、ルーファス・ウェインライトのヴァージョンも耳にする。 「秘密のコードがあると聞いた。ダビデが弾いて、神がそれに喜んだという」 という歌詞で始
音楽を愛したことでも知られる19世紀のドイツの哲学者アルトゥール・ショーペンハウアーは、譜面のなかにダ・カーポ記号がある意味について独自の解釈をしている。すなわち、もういちど最初から繰り返すということは、音楽に込められたものは一回聴いただけでは理解できないほど深いからだと。これが言葉表現の場合、ダ・カーポされたらゲンナリすること請け合いだ(たとえばここにD.C.があったら、読者はこの文章を見捨てるに違いない)。音楽は繰り返し聴かれることを歓迎するし、なんどもダ・カーポして聴かなければわからない音楽もある。そう、ジョン・ケイルの新作『マーシー』のように。 今年81歳になるロック界のレジェンドの説明をここでする必要はなかろう。ジョン・ケイルは故郷ウェールズを離れロンドン大学に進学し、そしてアメリカに渡ると60年代のクラシック音楽界における若い世代による革命──実験音楽ないしはミニマル・ミュージ
イケてるヤツはディーン・ブラントを聴いているが、今年はバー・イタリアも聴いている。 今年ももう1ヶ月を切り、年末の締切やライヴの準備などに忙殺されながらも今年を振り返るとバー・イタリアが記憶に鮮明に焼きついている。 2020年にファースト・アルバムをリリースしてから約3年の活動期間ですでに4枚のアルバムをリリースしている多作なバー・イタリア。前作『Tracey Denim』でばっちり心掴まれた方が多いと思うが今年2枚目のアルバム『The Twits』ではまた趣が違ったツボをついてきた。 ファースト・アルバム『Quarrel』、セカンド・アルバム『Bedhead』は共にディーン・ブラント主宰のレーベル〈World Music〉からリリースされていてギターや露骨な切り貼り、ミックスに至るまでまんまディーン・ブラント節の2枚だった。そんな2枚から2年を置いて今年5月に〈Matador Recor
謎が音楽を面白くする。もちろんそうだ。ゾクゾクする美しい悪夢のようだった前作『bedhead』がそうだったように、謎に包まれたバー・イタリアはずっと僕の心をとらえて離さなかった。ディーン・ブラントが主宰する〈World Music〉からリリースされた2枚のアルバムは、そのどちらも1分あるいは2分と少しの短い曲をまるで映画のシーンのように繋ぎ合わせてひとつの物語、イメージを作り出すというスタイルで、ディーン・ブラントの匂いがそこから強く発せられていた。ミステリアスで、どこか人を喰ったようなユーモアを持ち、そしてこぼれ落ちていく夢のようにはかなく美しい音楽を作る、バー・イタリアとはそんな存在だったのだ。 だがそれから2年の時間が経って、そのヴェールが少しずつはがされてきた。バー・イタリアはディーン・ブラントとコペンハーゲンで展覧会を開いていたイタリア人女性ニーナ・クリスタンテとサウス・ロンドン
この愚かな世界 去る2022年暮れのニューヨーク、Yo La Tengoのファンにはお馴染みのチャリティー・イベント、ハヌーカ・コンサートが今年も開催された。 Sun Ra ArkestraやSonic YouthのSteve Shelley、Lucy Dacusや Horsegirlら世代を越えたゲストを大勢招いて行われたその8夜連続のライブのことを考えると、彼らが40年のキャリアを迎えてもなおブレることのない気概と信念を持ち続けていること、そして何よりそのバイタリティに驚かされる。そしてそれは、彼らが変わらず今もそこに居てくれることのありがたさでもある。 2020年のNYのロックダウンを受けて制作されたアンビエントなインスト作品『We Have Amnesia Sometimes』、彼らの大きなチャームの一つであるカバー曲をメインに構成されたEP『Sleepless Night』を挟ん
いまやUSインディーロック/フォークを代表するバンドに成長したビッグ・シーフ。彼女たちの新作『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』は、リリースされるやいなや絶賛されているが、特にその独特で時に歪でさえある実験的なサウンドデザインが注目されている。そこで、ここでは、音楽評論家でレコーディングエンジニアでもある高橋健太郎に、ビッグ・シーフの新作の録音や音響を分析してもらった。 *Mikiki編集部 ビッグ・シーフというバンドが立つ新しい地平 ビッグ・シーフの『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』は20曲入りの大作だ。バンドとしては、2枚のアルバム『U.F.O.F.』、『Two Hands』を残した2019年以来のリリース。その間に、シンガーのエイドリアン・レンカーはソロプロジェクトへと向かい、『so
2018年。ビッグ・シーフが老舗インディー・レーベル《Saddle Creek》よりセカンド・アルバム『Capacity』をリリースした時点では、まだこのバンドは一部のインディー・ロック・ファンのみぞ知る存在であった。しかし2019年に発表された『U.F.O.F』と『Two Hands』という二枚のアルバムを契機に、批評家筋からの高評価のみならず『U.F.O.F.』がグラミー賞ベスト・オルタナティヴ・ミュージック・アルバムに、『Two Hands』に収録された「Not」がグラミー賞ベスト・ロック・パフォーマンスにそれぞれノミネート。停滞があちらこちらで囁かれていた(US)インディー・ロックに到来した新たなスター・バンドとしてこのバンドは一躍ワールド・ワイドな存在となった。ヴォーカル/ギターのエイドリアン・レンカーとギターのバック・ミークのルーツたる、フォーク(・ロック)をベースとしながら、
「クラウトロックという言葉は使わないで欲しい」——これがダニエル・ミラーからの唯一の要望だった。いまから2年ほど前、日本でのCANの再発に併せてライナー執筆および別冊を作る際に、全カタログをライセンス契約しているロンドンの〈ミュート〉レーベルの創始者は、イギリス人によるドイツ人への侮蔑と悪意がまったくなかったとは言いがたいこのタームを使うことに物言いをつけたのだった。 このタームには、もうひとつの問題がある。たとえばクラフトワークとアモン・デュールを同じ括りでまとめてしまうことは、ボブ・ディランもガンズ・アンド・ローゼズも同じアメリカン・ロックと束ねてしまうことのように、作品性を鑑みれば決して適切な要約とは言えない。しかしまあ、70年代の日本のメディアでは、ジャーマン・ロックという、だだっぴろい意味を持つ言葉を使って区分けされていたわけで、そのことを思えばジュリアン・コープが普及させたこの
先月チャーリー・ワッツが亡くなった時、追悼記事を書くにあたっていくつかのかつてのストーンズ関係の海外の文献を読みながら、彼らのライヴ・アルバムを久しぶりにまとめて聴いた。ストーンズには多くのライヴ・アルバムがあって、中でも69年11月下旬のニューヨークはマディソン・スクエア・ガーデン公演を収めた『Get Yer Ya-Ya’s Out!』(1970年)が私は大好きなのだが、それには一つの大きな理由と、いくつかの小さな理由がある。大きな理由は、もちろんブライアン・ジョーンズが亡くなった後であり、「オルタモントの悲劇」の起こる直前という非常にナイーヴな、だがバンドとして明らかに成熟期に入っている時期のライヴであること(だからギターはミック・テイラー)。いくつかの小さな理由は、チャーリーがジャケットにたった一人で(厳密にはポニーと一緒に)写っているバンドとしては極めて珍しいアートワークということ
2020年6月30日、シャムキャッツが解散した。2019年にデビュー10周年を迎え、同年12月に東京・新木場STUDIO COASTで記念公演を行った、その矢先のことだった。夏目知幸(ヴォーカル/ギター)、菅原慎一(ギター/ヴォーカル)、大塚智之(ベース)、藤村頼正(ドラムス)の4人がひとつの時代を駆け抜けたことは、これから先も記憶されつづけていくだろう。 新型コロナウイルスのパンデミックにより大規模なライブの開催もままならないなか、バンドは〈意地の最後っ屁〉として、お別れと感謝を伝える展覧会〈Siamese Cats Farewell Exhibition〉を渋谷パルコのGALLERY Xで開催。そして、本日10月21日に最後の作品『大塚夏目藤村菅原』を2枚組のレコードでリリースした。 〈一方的にさよならって言われてもなー!〉ということで、今回は田中亮太と天野龍太郎の2人が、最初で最後の
ローリーン・スカファリア監督・脚本の映画『ハスラーズ』は、ジェニファー・ロペスとフィオナ・アップルという、長く別の場所にいたはずのふたりの女性ポップ・スターを結びつけた作品であった。ニューヨークのストリップ・クラブの花形であるラモーナ(ロペス)が得意のポールダンスをカリズマティックに披露する、その登場シーンでアップルの “Criminal” が流れるのだ。“Criminal” は気だるげなアップルの歌がブルージーなピアノに絡む官能的な歌だが、そこでは男に対して加虐的に接してしまう女の罪悪感が吐露される。濁りを含んだピアノの打音、「自分を犯罪者のように感じてしまう、だから償いが必要」……。その歌が合図になり、『ハスラーズ』では出自や抱える事情が異なる女たちによる犯罪が始まる。ウォール街のクソ野郎たち、女たちを見くびってきた傲慢な男どもからカネを奪取するための。だけどそこには当然痛みや後ろめた
前作『ANGELS』(2019年)から約1年。THE NOVEMBERSがニュー・アルバム『At The Beginning』をリリースした。9曲中7曲においてyukihiro(L’Arc~en~Ciel/ACID ANDROID)がシーケンス・サウンド・デザインとプログラミングで参加した本作は、バンドのさらなる挑戦と冒険を伝えるアルバムとなっている。 今回はその『At The Beginning』について、「痙攣」の編集長・李氏に執筆を依頼。〈チル/暴力〉を特集テーマに掲げる「痙攣 Vol.1」は、5月6日に発売されるやいなやTwitterなどの口コミで広がり、初版が即完売になった注目の音楽ZINEだ(現在増刷中だとか)。そんな「痙攣」の生みの親であり、THE NOVEMBERSの熱心なファンでもある李氏。彼のドライヴするテキストを、ぜひアルバムを聴きながら楽しんでもらいたい。 *Mik
ロック好きの行き着く先は… 60年代のブリティッシュロックから70年代黄金期を聴きまくり、行き着く先はマニアへの細くて深い道のみか。それでも楽しいロックこそ我が人生。 by フレ ニューヨークアンダーグラウンドサウンドの雄、ソニック・ユースのメジャー出現よりも若干先駆けてアイルランドのダブリンから先駆的退廃的な不思議なサウンドを持ったバンドがメジャーシーンに躍り出てきた。1988年のマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン。バンド名を見ると凄くカッコ良いけど、B級映画のタイトルにも見える。この頃の英雄バンドにありがちなアルバム数枚で沈黙するパターン。現在はレーベル側が色々なアイテムをリリースしているがバンド側からの新しいリリースはない。若者がメガヒット作品出してカネを手に入れてしまうとそうなる。羨ましい。 マイブラのアルバムは二枚しかリリースされていない。それまでのシングルやミニアルバムを纏めたア
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