'19年6月12日(火) いつも元気なその女性は 「芦村タヨリ」という。 35歳、独身、会社勤めの デザイナー。 <年下男をコマすときは 平気で十歳(とお) ぐらいサバをよむ> ◆彼女にはわずか4文字の 人生信条しかない。 アラヨッ。ヨイショはだめ、 腰が重い。人生いろいろ ピンチが来ても、アラヨッの 掛け声で飛び越えていく――。 田辺聖子さんの 『夢のように日は過ぎて』 (新潮文庫)の主人公である ◆恋愛小説の名手、 田辺さんが91歳で亡く なった。軽妙なタッチに 温かなまなざし。 次々につむがれる 「おせい」さんの世界に どれほどの人が心を浸した だろう ◆訃報に接し、数ある物語 から先の女性を思い出した のは、田辺さん自身の信条に 触れたことによる。 かつて編集者に語ったという。 「私がデビューした頃は、 ご主人や息子さん、 お兄さん、弟さん。家族を 戦争で亡くした女性が たくさんい