海苔弁は好物である。 貧乏臭くて申しわけないが、あれは日本が誇る弁当文化の傑作ではないか。見た目の主役は白身魚のフライなのに、「白身魚のフライ弁当」ではなく、舞台裏で存在を支える海苔をフィーチャーするセンスは秀逸だと思う。 きんぴらや、ちくわの磯辺揚げの下、白米の上に敷き詰められた海苔のさらに下層に潜み、おかずとしてカウントされることすらないおかか。地味ながらも、その本質において、海苔弁の味とは、やはり海苔とおかかと米の三位一体である。見た目の印象に惑わされずに、味の記憶をたどれば、それはまさしく海苔弁と呼ぶことが相応しい。 今回ここに紹介するのは海苔弁の王者である。店の名を「海苔弁 いちのや」と言う(靖国通り本店 東京都千代田区九段南2-2-5)。 トヨタの広報車貸し出し基地は、千代田区三番町の二松学舎大学の裏手にあり、東京メトロの九段下駅から10分ほど歩く。クルマを借りに行く度に前を通
緊急事態宣言が出てからこっち、世の中の設定が、すっかり変わってしまったように見える。 にもかかわらず、先週も書いたことだが、私の生活はたいして変わっていない。 あるいは、私はずっと以前から緊急事態を生きていたのかもしれない……というのは、はいそうです、格好をつけただけです。本当のところを申し上げるに、私の生活は、緊急性とはほぼ無縁だ。それゆえ、このたびの事態にも影響を受けていない。それだけの話だ。 ブルース・スプリングスティーンの歌(1973年に発売されたアルバム「アズベリー・パークからの挨拶“Greetings from Asbury Park, N.J.”」に収録されている“For You”という歌です)の中に 「おい、人生ってのはひとつの長い非常事態だぞ」(Your life was one long emergency) という素敵滅法な一節がある。 私は、残念なことに、そういうロ
前々回に引き続き、「あいちトリエンナーレ」(以下「あいトリ」と略記します)の問題を取り上げる。 補助金交付(あるいは不交付)の是非については、前々回の当欄で比較的詳しく論じたので、今回は、別の話をする。 別の話というよりも、そのものズバリ、最も基本的なとっかかりである「表現の自由」ないしは「アート」そのものについて書くつもりでいる。というのも、「あいトリ」問題は、各方面のメディアが取り上げた最初の瞬間から、ずっと、「表現の自由」それ自体を考えるべき事案であったにもかかわらず、なぜなのか、その最も大切な論点であるはずの「表現の自由」の議論をスルーして、「公金を投入することの是非」や「日韓の間でくすぶる歴史認識の問題」や「皇室への敬意」といった、より揮発性の高い話題にシフトする展開を繰り返してきたからだ。 ここのところを、まず、正常化しなければならない。 今回、私がつい2週間前に扱ったばかりの
「闇営業」という言葉は、いつ頃からメディアで使われるようになったのだろうか。 この耳慣れない言葉は、誰によって発明され、どんな分野で市民権を得て、いかなるタイミングで新聞の紙面で使われるまでに成長したのだろうか。 職業柄、この種の新語には敏感なつもりでいるのだが、不覚なことに、私はこの言葉を、つい3日ほど前までまったく知らなかった。 この関係のニュースを知ったのは、ツイッターのタイムライン上に、スポニチの記事へのリンクが張られたからだ。 ところが、吉本興業所属の芸人などによる「闇営業」の顛末を伝える記事へのリンクは、その日のうちに、突如として削除される。 ニュースに反応していたアカウントのツイートは、当然、リンク切れになる。 かくして、この種のなりゆきにセンシティブなニュースウオッチャーたちが騒ぎはじめる。 「なんだ?」 「どういうことだ?」 「どうしていきなり削除してるんだ?」 「圧力か
「静岡県の6人に1人が塗炭の苦しみを味わうことになる。それを黙って見過ごすわけにはいかない」 静岡県知事の川勝平太は、そう東海旅客鉄道(JR東海)を批判する。 当初、川勝は「リニア推進派」だった。国土審議会の委員を務め、JR東海系の雑誌でコラムを担当したこともある。静岡を通過すると知って、いち早く南アルプスに登って視察した。 だが、計画が明らかになり、関係は暗転することになる。 リニアの線路で「座り込み」 リニアは静岡県北部の山中を11kmにわたってトンネルで貫く。大井川の水源を横切るため、毎秒2トンの水量が減少するという。水道水として62万人が利用しているが、毎年のように水不足に悩まされ、昨年も渇水で90日近く取水制限をした。 JR東海はトンネル内で出た湧き水を、導水路を掘削して大井川に戻し、減量分の6割強を回復させるという。 「全量を戻してもらう。これは県民の生死に関わること」。そう言
熱心に家族の介護をしていた人が、ストレスに耐えかねて自分の連れ合いや、親を殺してしまう“介護殺人”。それは確率の問題で誰にでも起こりうること――。だが、裁判所からメディア、そして会社や周囲の人々も含め、理解はいっこうに広がっていかない。 前編に続き、2016年放映の「“介護殺人”当事者たちの告白」の制作を指揮し、これを再編集した書籍『「母親に、死んで欲しい」: 介護殺人・当事者たちの告白』に携わった、日本放送協会(NHK)大阪放送局報道部(報道番組)の横井秀信チーフ・プロデューサーと、松浦晋也氏の対談をお送りする。 (構成:編集Y) 横井:「こんな状況を放置すべきではない。だから何とかしましょう」となるべきなんですが、実は全然なっていない。会社でもそうですし、今の介護保険制度もそうだと思うんです。何かこう、何とか継ぎはぎしているような感じになっているというか。 松浦:それは、「介護」という
4月7日、セブン&アイ・ホールディングスの2016年2月期決算を説明する記者会見の会場は、異様な雰囲気に包まれていた。 かねて、同社の鈴木敏文会長兼CEO(最高経営責任者、83歳)は、傘下でコンビニエンスストア事業を手掛けるセブン-イレブン・ジャパンの井阪隆一社長兼COO(最高執行責任者、58歳)に対し、退任を求めてきた。4月5日に開かれた指名・報酬委員会では、井阪社長の退任と新たな人事案について、鈴木会長とセブン&アイの村田紀敏社長兼COO(最高執行責任者、72歳)、社外取締役2人の計4人が、5時間に渡る議論を重ねた。それでも結論は出ず、7日の取締役会で、井阪社長の退任を含めた人事案が諮られることになった。 結果は、賛成7票、反対6票、白票が2。取締役15人の過半の賛成を得ることができず、鈴木会長の提案した人事案は否決された。これを受けて、鈴木会長は退任を決意したという。午後4時半から開
民主党支持層は93.8%が同党に投票する。ところが自民党支持層は18.3%が次は民主党に投票するとした。支持政党を持たない人たちも47.4%が民主党に投票すると答えた。本来の支持政党にかかわらず、民主党に雪崩を打って流れていく様子は鮮明だ。 「医療・年金」政策に関心 「民主党としては大方は固まっているが、あまり早くに出して自民党にまねされるのも困る」 民主党がマニフェストを発表したのは7月27日。その1カ月前、民主党でマニフェスト作りの実務を担当していた衆院議員は自信を見せた。その仕上がりを評価する声が強いことが、緊急アンケートでも明らかになった。 政権与党の自民党と、野党第1党の民主党のマニフェストについて、どちらが優れているかをアンケートで聞いたところ、「自民党」あるいは「どちらかと言えば自民党」と答えたのは約2割。これに対して、「民主党」「どちらかと言えば民主党」はその2倍以上に相当
ワシントンDCで毎季開催される全米のエコノミスト会合に参加して帰国する際、ダレス空港の売店で奇妙な雑誌の表紙が私の目に飛び込んできた。“Manga Conquers America-Now Japanese comics are reshaping pop culture.”と題した雑誌WIREDの特集記事である。 記事は日本の漫画・アニメが米国、欧州に広範に普及し、世界のポップカルチャーに新しい変化をもたらす源泉になっていると語っている。NBonlineでも遠藤誉さんの「中国“動漫”新人類」は、日本の漫画・アニメが中国に浸透し、文化的なフュージョン(融合)を生み出している状況を描いており、面白い。米国でもジャパン・アニメフェスティバルは各地で毎年開催され、漫画キャラクターに扮した米国の若者たちで賑わう。 なぜ日本の漫画、アニメ、ゲームソフトが海外でも人気なのか? こうした「ジャパン・イン
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