日本における最初の統一国家=ヤマト政権は、大陸からやってきた騎馬民族による征服国家だった考古学者の故・江上波夫(東京大学名誉教授)が戦後間もない時期に提唱した「騎馬民族日本征服説」は、「皇国史観」に親しんでいた日本人を驚愕させ、学界に論争を巻き起こした。東京大学大学院教授・小島毅氏が「騎馬民族説」とはなんだったのか考察する。 * * * 「騎馬民族説」は、1948年5月、民俗学者の岡正雄、考古学者の八幡一郎、人類学者の石田英一郎と行なった雑誌企画の座談会で江上波夫が提唱し、その後、「騎馬民族説=日本国家の征服王朝説」として拡充・発展させたものだ。 その主たる根拠は、古墳時代後期(6世紀前半)になると、大和地方の古墳群の副葬品にはそれまで見られなかった大陸の影響を窺わせる馬具類が多く見られることである。江上は記紀(『古事記』と『日本書紀』)にもその傍証を求め、神武東征伝承は騎馬民族が九州から