近代的著作権法は,王室による検閲と結びついた出版特権から生まれたことは,よく知られた事実である。日本では,明治時代に成立した著作権概念・著作権法は,欧米からの借り物と江戸時代における版権概念の混淆とでも言うべきものだった。江戸時代における版権概念はどのようなものだったか。ヨーロッパで成立した出版特権・著作権との比較から見るのが,本稿の目的である。主要な参考書は,中野三敏『和本のすすめ 江戸を読み解くために』(岩波新書,2011年)である1)。 まずは,和本の歴史の概略を見る。 明治時代以前,手すきの和紙に書かれたか,印刷された本を「和本」という。書かれたものは「写本」,印刷されたものは「刊本」「板本(はんぽん)」という2),3)。 板本は,8世紀から慶長(元年=1596年)の頃までは,「整版」と呼ばれる印刷技法によるものが中心だった。整版は,木版画技法で印刷した板本である。その後,戦国時代