世の中、便利になったもので、五千円札の肖像にもなった新渡戸稲造氏が、昭和初期に書いたエッセーを電子書籍で簡単に読めたのには驚いた。しかも無料じゃあ、神田の古本屋もたまったもんじゃない。 ▼と、ブツブツ言いながら読んだのが「偉人群像」である。内外の偉人たちのあれこれをエピソードを交えて描いており、彼が実際に会って話をした同時代人の生き生きとした口跡が伝わってくる。 ▼伊藤博文元首相(公爵)の巻は、ことに感慨深い。東京帝大で植民政策を講じていた新渡戸は、明治41年ごろ、初代韓国統監を務めていた伊藤に会うためソウルに渡った。「韓国併合」に難色を示す伊藤公をなんとか説得してほしい、と友人の官僚に頼まれたのである。 ▼「朝鮮人だけでこの国を開くことが果たしてできましょうか」と勢い込んで日本人の大規模移住を説いた新渡戸に伊藤はこう諭したという。「君、朝鮮人は偉いよ。この民族にしてこれしきの国を自ら経営