このBlogは、私が物語研究の途上で出会った様々な発見や、物語をともに学ぶ人々との出逢いを綴ったものです。ごらんのみなさんにも物語文学の深遠なる森の如き世界の一端をお知りいただければ幸いです。 学会シーズンの戦陣を切って、著者・廣田先生から大著『古代物語としての源氏物語』拝領。ありがとうございます。受け取って梱包を解くと、美麗な装丁の本書に「あぁ、おぉ」と声を挙げる。「まえがき」にも共感。 「研究として『源氏物語』をどのように読むのか」というとき、こう読まなければならないという決まった読み方が最初からあるはずもないが、ただ単に恣意的な読みを披露し、散漫な感想を述べるだけでは『源氏物語』の研究としての読みに共感は得られないであろう。 なぜなら、私的な読みに思わず知らず現代的もしくは近代的な基準による解釈が紛れ込む可能性があるからである。『源氏物語』が「読解至上主義」に陥ることを非難する向きも
『文章軌範』所収散文は「出師表」と「帰去来辞」を除くと全て唐・宋代の作品ですから、これと前掲二書(古文真宝と古文観止 - Cask Strength)の内容を単純に比較するのはますます意味のないことなのですが、それでも重なるものはやはり多いですね。以下は『文章軌範』『古文真宝』『古文観止』に共通する作品のリストです。 陶淵明「帰去来辞」 杜牧「阿房宮賦」 蘇軾「赤壁賦」 蘇軾「後赤壁賦」 韓愈「師説」 韓愈「雑説」 韓愈「送孟東野序」 韓愈「送李愿帰盤谷序」 范仲淹「厳先生祠堂記」 范仲淹「岳陽楼記」 李覯「袁州学記」 王安石「読孟嘗君伝」 蘇軾「潮州韓文公廟碑」 柳宗元「桐葉封弟弁」 韓愈「諱弁」 諸葛亮「出師表」 韓愈「原道」
先週とある日の雑談から思い出したこともあって。 祖父が昔突然「ヨ、カノハリョウノショウジョウヲミルニ、ドウテイノイッコニアリ・・・」と朗誦を始めたときには何のことかと思いましたが(祖父は「お前こんなのも知らないのか」という顔をしていましたが)、これが「岳陽楼記」の一節であったと気付いたのはだいぶ後になってからでした。戦前の教育を受けた人にとって『古文真宝』は漢文の教科書的存在として大きな意味を持っていたのですね。 私は『古文真宝』を復権させようというつもりはあまりありません。素性のよくわからない本でして、中国ではだいぶ早くに廃れました(四庫全書にも入っていません)。本文も、信頼性の高い他のテクストと校合するとどうも具合の悪いところがある。一言でいえば「俗書」です。その歴史的使命は終えたと言っていいと思います。 中国では『古文真宝』の代わりによく読まれているのが清代に成立した『古文観止』です
去年に続き(2010年、今年読んだ知的向上心をかきたてる本5冊 - Cask Strength)今年も。ただし、「本棚メモ」でとりあげた本は除外、という縛りは外します。でないと来年以降もキツイでしょうから。一般の人、専門外の人でも楽しめるもの・有意義なものを、そして普通の書評サイトではあまり取り上げないだろうというものを意識的に取り上げたという方針は昨年と同じ。 『読んでいない本について堂々と語る方法』 読んでいない本について堂々と語る方法 作者: ピエール・バイヤール,大浦康介出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2008/11/27メディア: 単行本購入: 17人 クリック: 306回この商品を含むブログ (95件) を見る 今更ですが、読んでいなかったのでw 結局は、読んでいない本を堂々と語るには、素地としてある程度の読書量と教養がないとダメだというのがミソ。当たり前ですが・・・。本
尾崎康先生の『正史宋元版の研究』(汲古書院、1989年)が、中国の正史について最も確かな版本学的研究であることは、いまさら言うまでもありませんが、この大業績が中国語に訳出されました。 正史宋元版之研究 (日) 尾崎康著 ; 喬秀岩, 王鏗編譯 中華書局 2018年 この中国語版、単なる日本語版の翻訳ではありません。本書を読むと分かる通り、尾崎先生は日本語版をお出しになった後も精力的に調査を続けられており、北京の国家図書館、北京大学図書館、上海図書館、復旦大学図書館などの蔵書をお調べになって、それぞれ成果をまとめていらっしゃいます。このたびの中国語版には、それらの成果が全面的に盛り込まれており、さらに充実した増訂版となっています。 本書は、橋本秀美氏のご尽力によって成ったものとの由、同氏「漢訳増訂版編後記」に記されております。この編輯自体も、それ自体たいへんなお仕事です。 汲古書院版をすでに
最近、このブログの記事「平凡社東洋文庫版『漢文研究法』」の中で、「みすず版の瑕疵を数十箇所ほど訂正することができたのは、小さな喜びでした」と書いたところ、それを見て「どこをどう変更したのか」と声をかけてくれた友人がありました。 一冊買ってくれればすむものを、とも思いましたが、みすず版に訂正を加えて長く愛用したいということかも知れません。そういう需要もわずかながらあるのでしょう。以下、メモしておきます。左がみすず版、右が東洋文庫版で、問題のある字に色をつけてあります。 ・p. 9「Qu‘ sais-je?」→p. 19「Que sais-je?」 ・p. 19「『千頃堂書目』百三十二卷」→p. 30 「『千頃堂書目』三十二巻」 ・p. 29「清邵懿振撰」→p. 41 「清邵懿辰撰」 ・p. 38「T‘oung P‘ao」→p. 51「T’oung Pao」 ・p. 45「祖孝徴名(斑)」→p
2018年7月15日(日)午前10時より午後3時45分まで、伊藤国際学術研究センター伊藤謝恩ホールにおいて、本学の学生・院生・教職員及び首都圏を中心とした大学や博物館・美術館・研究機関等に所属する教員・研究者・学生・院生等を対象に、「陽明文庫設立80周年記念特別研究集会―最新の研究成果の報告と陽明文庫の過去と未来―」が、公益財団法人陽明文庫(近衞忠煇理事長)と本学史料編纂所に研究拠点を置く科学研究費補助金(基盤研究(S))「天皇家・公家文庫収蔵史料の高度利用化と日本目録学の進展-知の体系の構造伝来の解明」(研究代表者 田島公史料編纂所教授)の「主催」により開催されました(「共催」は、史料編纂所、京都府立京都学・歴彩館、科学研究費補助金(基盤研究(A))「摂関家伝来史料群の研究資源化と伝統的公家文化の総合的研究」研究代表者 尾上陽介史料編纂所教授)。 この研究集会は、本年11月に設立80周年
【8月18日 東方新報】古書店として名高い北京の「中国書店」総経理の於華剛(Yu Huagang)氏はどうやって、日本の書店で「お宝」を発掘するのだろうか。 於氏は「中国書刊発行協会」古書業工作委員会の主任も務めている。同委員会は日本の業界団体とも古くから交流があった。 「ある年、日本の書店関係者が冬の北京を訪れた時、皆さんは薄着でした。私は彼らを衣料店に連れて行き、ダウンジャケットを買って差し上げました。こうした関係がありますので、毎年、日本の大きな書籍イベントに展示される書籍などのリストも手に入ります」 於氏は日本に行くと、観光もせずひたすら書店を巡る。 「札幌を訪れた際には、中国人留学生に車を運転してもらい、本屋を巡りました。この数年で北は北海道から南は北九州まで行きましたよ」 しかし日本語ができない於氏が、どうやって日本の書店関係者やコレクターとやり取りするのか。 於氏は日本で明版
【8月18日 東方新報】北京の「中国書店」は、多くの古書に巡り合える場所だ。 近年、その蔵書の数はさらに増えた。海外に散逸する中国古書を買い戻す取り組みを続けると共に、そうした古書を整理・出版し、内容を多くの読者と共有している。 古書買い戻しを行っているのは、今年2月、中国書店の総経理に正式に就任した於華剛(Yu Huagang)氏だ。多くの古書が、於氏によって国外から買い戻され、その大半が中国文化とつながりの深い日本に残されていた。 於氏は小学生のころから、中国書店の常連だった。1952年開業の中国書店は、当初は中国の貴重な文献資料の保存に携わっていた。そして、この十数年は海外で多くの古書を購入している。 「以前から、古書の流出には思うところがありました。これらの本は一度売られると、同じ値段で買い戻すことが難しいのです」 於氏は、中国書店にある古書をデータベース化すると同時に、国外に流出
時枝言語学入門 国語学への道 (附 現代の国語学 ほか) 言語の本質とは何か? 時枝自身による時枝言語学入門 ソシュールらを模倣した近代日本言語学を批判し、日本語に即した日本語研究として構築された、「言語過程説」の由来、精神、方法、歴史。『国語学原論(正続)』『国語学史』以降の時枝思想のエッセンス。近代型普遍化主義の迷妄を学問的に批判しうる特異なポジションにある日本言語学の意義を明らかにする。時枝自身による学問的自伝『国語学への道』に加えて『現代の国語学』および主要著作の序文類を併録。 関連書 時枝誠記論文選 言語過程説とは何か ここのリンク先で本書のなかをご覧いただけます(PDFファイル) 著者 時枝誠記 書名 時枝言語学入門 国語学への道 (附 現代の国語学 ほか) 体裁・価格 A5判上製 384p 定価7590円(本体6900円+税10%) 刊行 2018年7月 ISBN 978-4
スリップレスの話題。小零細出版社側の、スリップ利用の目的、コスト・手間。 ※怒られるかもですが、あえて「ドライ」に書きました。 ※この話題の続き→「ISBNを入力して私製スリップを表示する「vslip version0.0 (パイロット版)」を作りました」 ■出版社がスリップを使う目的 1.注文票としての利用 →POS端末への置き換えが進み、スリップそのものを注文票とする利用は激減している(実感として)。 2.売上調査票としての利用 →POSの普及により、ほぼ使われていない。送付いただいた分も集計はしていない(たまにすることもある)。 3.刷りの区分用 →何らかの理由で以前の刷りの出荷を管理する必要が生じた際、スリップの色を変えたりボウズにチェックを付けたりして目印にすることがある(そうしないと、奥付の確認が必要になり、倉庫の手間がかなり増える)。 ※現状では弊社はこの目的でしかスリップを
『文学研究の窓をあける―物語・説話・軍記・和歌』(石井正己・錦仁編 笠間書院)が出ました。2016年12月の講演会と、翌1月のシンポジウムを中心に本にしたものです。内容は第1部講演録、第2部海外から見る日本文学、第3部緊急共同討議「文学研究に未来はあるか」の構成になっており、1部と3部は石井正己・小峰和明・松尾葦江・錦仁の4名が中心、2部は韓国の金容儀さんと李市埈さん、それに加えて米国在住のセリンジャー・ワイジャンティさんの論文が載っています。1部2部の論題は本ブログ2017年1月14日付の「お知らせ」に載せておきました。 3部では、「今、古典文学を研究すること、教育すること」についても話し合われています。主催会場が東京学芸大学という、国語教育の専門家育成の場でもありましたので、本書の企画の最初から、そういう問題意識がありました。東北大地震や近年の文部政策にも話題が及び、文学は何をするのか
円城塔氏の新作『文字渦』は、中島敦の短編小説『文字禍』を思わせるタイトル作をはじめ、文字好きにはたまらない摩訶不思議/縦横無尽なストーリー。文字好きのためのサイト type.center では、円城塔氏にインタビューを行いました。 当サイトでももちろん2016年5月の「新潮」での連載開始時から即座に反応、第43回川端康成文学賞の受賞もニュースとしてとりあげるなど、大注目の『文字渦』。 単行本の出版に合わせ、ついに円城塔氏へのインタビューを敢行! 聞き手は大日本タイポ組合の塚田哲也が文字好きを代表し、当サイトならではの文字が渦巻くインタビューとなりました。 ……ということで本来ならこのタイミングでインタビュー文が掲載されるはずなのですが、実のところ未だ編集が進んでおらず……。 ならばいっそのことインタビュー原稿をGitHub上に掲載、それを元に編集・校正そして円城氏による原稿チェックをバージ
Do you have a habit of picking up books that you never quite get around to reading? If this sounds like you, you might be unwittingly engaging in tsundoku - a Japanese term used to describe a person who owns a lot of unread literature. This Twitter post cannot be displayed in your browser. Please enable Javascript or try a different browser.View original content on Twitter
古田尚行さんの『国語の授業の作り方』(文学通信)という本が出ました。古田さんは「国語科教員の部屋」というブログもお持ちで、30代半ばの中高一貫校教諭です。真面目な方で、国語教育の前衛たらんとする意欲が、この本にも満ちています。 本書は、1授業の前に、2授業中のこと、3授業の後に、4授業作りのヒント集、5授業作りで直面する根本問題、6授業の作り方・事例編、7教材研究のための文献ガイドという構成になっており、文学通信(株)の発足後2冊目の本でもあります。本作りの面からいうと、率直に言って、1~3章までを独立させ、『教育実習に行く前に読む本』と銘打って、事前指導ガイドとして売るべきだったのではないかと思います。4章と5章の一部をもとに『教採に受かったら読む本』というのを1冊、そして古田さんの経験に基づき、国語教員の仕事とは何かを論じる3番目の本の核に、5,6章が据えられる、というのが望ましい。
「本の最初のページを開いたら、いきなり145ページだった…」著者が語るユニークな理由 こちらは海外で1995年に出版された、いわゆる恋愛エッセイ本。 とある人物が読み始めたところ、いきなり145ページから始まっていて驚いたそうです。 落丁本かと疑ったところ、冒頭にそれについての著者の注意書きがありました。 This definitely caught me off guard. from r/funny 「著者からの注意 すぐに気づくと思いますが、この本は145ページから始まります。心配しないでください。これは間違いではありません。返本しないでください。ページが飛んで消えているわけではありません。 これは単に、自分が読書するときは本の真ん中あたりを読むのが好きだからです。何ページもその前にあり、何ページもその後ろにある状態です。 まだ自分が読んでいるところが8ページ目のときは、あまりに残っ
2024.04.22New お知らせ 非公式・違法グッズに関する注意とお願い 2024.04.23New お知らせ GW中の弊社の営業について 2024.04.10 展覧会・イベント 鈴木康広展「ただ今発見しています。」 2024.7.20-9.1 | 二子玉川ライズ 2024.04.11 展覧会・イベント 「三島喜美代―未来への記憶」 2024.5.19-7.7 | 練馬区立美術館 2024.03.22 展覧会・イベント 「丹下健三と隈研吾展 東京大会の建築家たち」 2024.5.2-6.29 | パリ日本文化会館(フランス) 2024.04.12 展覧会・イベント 『シュルレアリスム宣言』100年 シュルレアリスムと日本 2024.4.27-6.30 | 三重県立美術館 2024.03.08 展覧会・イベント 「隙あらば猫 町田尚子絵本原画展」 2024.4.24-5.6 | 大丸ミュ
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