ハイデガーの手記のうち、1931年から41年にいたる10年間分が、ドイツで公刊されつつあるそうだ。これらは、黒表紙のノートブックに記されていることから、ブラック・ノートと呼ばれているそうだが、ブラックなのは体裁だけではない、内容もまたブラックだ、と断定するものが多いという。というのも、この期間のハイデガーは、ナチスの党員として、ドイツのナショナリズムを称揚する一方、師匠であるフッサール(ユダヤ人)に対して不当な態度をとるなど、反ユダヤ的な言動をしていたことが知られているが、そうした言動がこの手記からも裏付けられるというのである。 ハイデガーのナショナリズムは、近代への嫌悪に根差している。その嫌悪感をハイデガーはニーチェの反近代主義的な思想によって鼓舞されたわけであるが、それはさておいて、かれの反ユダヤ主義については、どんな因縁があるのだろうか。少なくとも、それについては、ニーチェは無縁であ